2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第4分野 社会のなかの「どうして?」
最優秀賞 感情のデジタル化
福岡県立輝翔館中等教育学校 5年 野田 彩芽

 私の大好きな本が消えようとしている。インターネットの普及や情報端末の発達により書籍の電子化が本格的に始まった。すでに私達の日常生活の中にも、それは携帯小説や電子コミックという形で現われている。しかし本当に書籍の電子化は必要なのだろうか。そう考えた結果、辿りついた結論は、本はなくなってはならないということだ。
 紙の書籍が情報機器に取って代わることは、社会に大きな影響を与えることになる。書店や印刷所、運送業などの本の流通と販売に関わる企業が経営難に陥ることも考えられる。学校の授業の様子も一変するかもしれない。先生は電子黒板で授業を進め、生徒はノートを書く代わりに、パソコンに文字を入力することになるのか。きっと通学鞄は軽くなるのだろうが、鞄の重みにもちゃんと意味はあるはずだ。重い鞄に慣れた私にとって、それは違和感以外の何ものでもない。
 やはり、私は本は本のままであり続けて欲しいと思う。それは、本を手に取った時に感じる重さが心地良いからだ。自分の成長と共に、手にする本の厚みは増していく。読破することの困難さに、思わず負けそうになりながらも、最後のページに辿りつく達成感は他では得られないものだ。スピーディな展開に圧倒され、残り少なくなったページを惜しむように読み進める感覚も、私は本から学んだ。また幼い時の私が、いたずらにつけてしまった折り目や落書き達に、数年後に出会った時のなつかしさは、本と共に歩んだ私の記録の証でもある。確かに、作品は作者のものであるが、手にした本は私のものだと言い切りたいのだ。
 私の部屋の本棚にはたくさんの本が並ぶ。その本の一つひとつが、私を支えてくれる友人であり、多くの事を教えてくれる先生でもある。新しい本を開く時の、微かなインクのにおいとギシッと紙のきしむ音は、私と本との出会いのあいさつだ。

講評

 今の時代を若者がどう受け止めているのかを理解できる作品として、高く評価しました。借り物の意見ではなく、「自分の成長と共に、手にする本の厚みは増していく」や、「最後のページに辿りつく達成感は他では得られないものだ」という、実際に本を読んだ経験のある人でなければ書けないことが書かれている点に好感を持ちました。デジタル化の大きなうねりの中で、作者のような意見は現代社会の若者の間では少数派かもしれませんが、「頑張れ!」と作者を応援したくなる作品です。
 自分の意見のほかに、友達は「こう考えている」といった他人の意見も交えた構成にしたら、さらに良い作品になったと思います。

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