2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
優秀賞 一人の思い
新潟県立高田北城高等学校 3年 須山 颯太

 暑い夏の日。私は職場体験でバスの整備工場を訪れた。私はその日、ホースを持って工場の床をきれいにしたり、バスを洗車する仕事をした。バスを洗うとき、工場の人に、バスはお客様に気持ちよく乗ってもらうものだから隅々まできれいにね、と言われた。大きなバスは半日かかってようやく洗い終わり、私はきれいになったバスを見て、満足感でいっぱいになった。
 次の日、私は工場の中でバスの部品を運ぶ仕事をしていた。お昼を過ぎたころ、車庫に、昨日私が洗ったバスが戻ってきた。あちこちまた汚れていて工場の人が洗おうとしていた。それからしばらく私はちらちらとそのバスを見ていたが、その人は同じ所ばかり洗っているように見えた。不思議に思って聞いてみると、どうしてもとれない汚れがあって、つい同じ所をやっていたとのことだった。その場所は、昨日私もとろうと思って悪戦苦闘していたが、他の場所も洗わないといけないのであきらめたところだった。その人は続けて言った。「一ヵ所でも汚れを残してはいかん。もしそこを見たお客様が一人でもいたら、そのお客様にとっては、このバスは汚いと思うかもしれん。たとえ一人でもそう思う人を作りたくないんだよ。」と。効率ばかり考え、満足していた自分がとても恥ずかしく思えた。私の心に深く刻まれた一言だった。
 仕事の速さや、合理性ばかりが重視される今の世の中。多数決の多数を採る社会なのだから、少数はますます少数になってしまう。たった一人の思いなんて力にならない。私自身、そう思っていた。しかし、ちりも積れば山となる、という言葉があるように、一人でもそれが積み重なっていけば、多くの人の思いになる。全体の印象も、一つ一つの小さな印象によって作られる。たとえ一人でも、その人にとってはそれがすべてなのだ。多数の人が持つ大きな思いより、それを作る一人一人の小さな思いこそ大切にしようと思った。

講評

 職場体験で経験したり、感じたことを書いた作品が数多くありましたが、その中でバスを洗車する仕事という珍しい経験を取り上げたことが印象に残りました。そして、仕事の速さや合理性ばかりが重視される現代に、時間と手間がかかっても、お客様のために「一ヵ所でも汚れを残してはいかん」と言って打ち込む姿をしっかり受け止めて感動した作者の気持ちが素直に書かれている点が、さわやかな読後感につながっています。ただ、内容を少し整理して、「普段の生活の自分はどうだろう?」と問いかけてみたり、登場人物以外の大人もこうやって自分の仕事に責任を持って取り組んでいることに視野を広げて書くと、もっと良くなったと思います。

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