2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
審査員特別賞 忘れない記憶
島根県立松江農林高等学校 3年 錦織 美礼

 夏も終わり涼しくなってきた十月上旬。私は職場体験でデイサービスを訪れていた。今日は実習初日。早速落ち込む出来事があった。利用者さんに「あんたの声小さいけん聞こえんが。」と言われたのだ。普段関わる高齢者は祖母だけだ。全く見ず知らずの利用者さんとの関わり方を私は知らなかった。
 私の住む島根は、高齢化率二十八・九%。約三人に一人が高齢者という県だ。私は、介護福祉士になって、島根を支えていきたいと思っていた。しかし、高齢者を介護するというのは簡単なことではないと、職場体験初日から思い悩んでしまった。けれどもその後は、大きな声でゆっくり喋るよう心がけた。沢山失敗もし、悩んだまま職場体験最終日を迎えた。
 そして、最終日は利用者さんと共に遠足に出かけた。私は一人の利用者さんに専属で付いた。その利用者さんは認知症を患っていて、同じことを何回も繰り返し話され、その度に私も同じ返事をした。車イスを押すこと、体調を気遣うこと、お話すること、とにかく一生懸命だった。
 そして、いつの間にか実習は終わりに近付いていた。ぼんやりと利用者さんたちを見送りに行った時、私が担当した利用者さんが、突然大きな声で言った。「私を、今日世話してくれた人はどなただったかしら? ありがとうって伝えてちょうだい。本当にありがとうって。」その言葉を聞いて私は胸が熱くなった。きっと「私ですよ」と言っても利用者さんは思い出せないだろう。しかし、「誰かに何かしてもらい感謝している」そんな記憶は忘れないのだと思うと、嬉しくなった。きっと私はその「ありがとう」の一言で頑張れるような気がした。
 介護は決して簡単な仕事ではない。しかし、私にとって「ありがとう」たったその五文字は大きかった。これが私が介護する理由だと思った。まだまだ未熟な私だが、いつかは立派な介護福祉士になりたい、と思っている。

講評

 初めて行った職場体験のエピソードが、高校生らしい感性で書かれていて好感を持ちました。まずタイトルを見てから、「どんな内容が書かれているのだろう?」と思いながら本文を読んだのですが、認知症の高齢者と過ごした一日の出来事が素直に書かれていて、タイトルと内容のバランスが良いと思います。初めての体験の感動は伝わってきます。これから歩んでいく長い人生の中で、嬉しい出来事も、厳しい出来事もいっぱい経験するでしょう。その時にどんな感想を持つのか、興味があります。ぜひ、その時の気持ちもエッセイにまとめてください。

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