2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
最優秀賞 言葉がくれた幸せ
静岡県立清水東高等学校 1年 城内 香葉

 その日は、私立高校の入試で、私は電車で一時間程かけて、受験校へ向かいました。行きは母がついてきてくれましたが、帰りは一人で電車に乗りました。座席の一番隅に座ると、私はそのまま頭を大きく下げて、ウトウトしてしまいました。初めての入試で緊張して昨夜は寝付きが悪く、試験が終わってホッとしたのか、電車の中は心地良い空間でした。
 どのくらい経ったでしょう。電車は混んできていました。ふと視線を感じて頭を上げると、優しく微笑むように私を見つめるおばあさんが立っていました。私は慌てて、だらしない膝に力を入れると、「どうぞ。」と立ち上がろうとしました。おばあさんは、私の肩を押して、「いいのよ。そのまま座っていて。疲れているんでしょう。頑張ってお勉強してきたんでしょう。おばあちゃんは今まで遊んできたんだから。」と言われました。
 すると、私の隣に座っていた人たちが、少しずつ席をつめてくれて、一人分のスペースができ、おばあさんは頭を下げると、私の隣に腰かけました。
 「ありがとうね。若い人達が頑張って仕事してくれて、学生さん達が一生懸命お勉強してくれるから、おばあちゃん達は安心して遊んでいられるのよ。」とても温かい言葉でした。
 「もっと、頑張れ!」と言われっ放しの毎日の中で、おばあさんが言ってくれた「頑張ってきたんでしょう。」の言葉がとてもくすぐったくて、今だけはそんなおばあさんの言葉に甘えていたくなりました。
 私は今日が入試だったことや、電車に乗りなれていないことを話しました。おばあさんのふわっとした匂いと一言一言からあふれ出す優しさに包まれて、幸せな時間でした。
 「合格できるようにお祈りしているわね。」おばあさんはそう言って、電車を降りて行きました。ありがとうの言葉だけでは、全然足りない気がして、私はおばあさんが見えなくなるまで手を振りました。

講評

 優れた作品が多かった第一分野の中でも、審査員全員が高い評価を付けた文句なしの最優秀賞です。また、第一分野では電車の中でのふれあいを描いた作品が数多くありましたが、その中でも秀逸な作品でした。電車で出会ったおばあさんの優しい人柄と作者の素直な心情が読者に伝わってきて、読んだ後に温かい気持ちになれました。そして、「もっと頑張れ!」と言われっ放しの毎日で、ちょっと反抗的な気持ちになる高校生の心情がしっかり表現されていたり、車内の様子やおばあさんとの会話といったディテールがよく書かれていて、情景が手にとるようにわかる点が、高く評価されました。最後の「私はおばあさんが見えなくなるまで手を振りました」という部分も、作者の温かい気持ちが伝わってきて良かったと思います。

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