2007年度 日本福祉大学 第5回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36c
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第2分野  あなたにとって家族とは?

「マリオネットの復活」
智辯和歌山高等学校 3年 重里 朋

  
  ある日私は動かなくなった。糸の切れたマリオネットのように。重力に従い、体は白いシーツの海に深く深く沈みこんだ。指先を動かすのすらおっくうで、目を閉じずっと助けを待った。
  それから1ヶ月、母はあちこちの病院を駆けずりまわった。私は事態を飲み込み始め、治療法が見つかるのを待った。しかし、いつまでたっても一向に治る見込みはつかず、医師も首を横に振った。
  絶望、だった。きっともう私の体は動かない。学校にも行けない。友達と約束していたバックパッカーの旅にも出れないし、彼と手をつなぐこともできない。なんでよ、何をしたっていうのよ。足を踏み鳴らし叫び続けた。泣いて、叫んで、疲れて眠る。そうしてクーラーの微風に吹かれうとうととしている時、父がベット際に背を向けて静かに座っていた。
  「なぁ、お前が生まれた時、嬉しくてなぁ。父さん、一番黄色い星に誓った。 何があっても守ってみせるって。やからその後ヘルニアになって、もうお前よう抱かん言われた時も、絶対あきらめへんかった。今、きっと悔しいやろけど、何があっても守るから。ええようにするから。待ってるんやで。」
  ぼそぼそと呟くその声は、低く掠れて聞き取りにくく、泣いているようだった。私は背を向けたまま寝たふりを続けた。父があんなことを言うなんて。仕事ばかりで、家でも不機嫌で怒りっぱなし。癇癪持ちで、誉めてもらったことなんてない。その父が私の為に泣いていた。“なにしてたんやろ”心の底から思った。きっと、私のために父も母も兄も泣いた。やりきれない思いを抱いて。自分だけが悲劇のヒロインじゃない。
  今、私はまた思いっきり走れることを夢見て、頑張っている。家族の心がシンクロした時、私は確かに変わった。やれるとこまで生きていく原動力。それが家族だ。


講評
 高校生にとって「父親」は遠い存在のようで、応募作品でも「父親」との関係を描いた作品は多くありません。家でもあまり触れ合う機会が無かった父親の愛情を描いた作品であることを評価しました。ただ、病気が現在はどんな状態なのか……といった描写をきちんとしていれば、さらに印象深い作品になったでしょう。

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