「『抱き締める』という会話」
横浜隼人高等学校 3年
相原 麻衣
「私と弟、ママはどっちの方が好き?」
私と一つ下の弟は、幼い頃母によくこう尋ねました。すると母は必ず、
「どっちも好きよ。」
と答えました。私はどうしてもどうしても、母にどちらか選んで欲しくて、思いつく度に何度もしつこく聞きました。しかし相変わらず、母の答えはいつも一緒でした。
母は弟が生まれてからずっと、私達姉弟を女手一つで育ててきました。朝早くに家を出て、帰宅するのは深夜になってから。私達の面倒は祖父母が見てくれました。私達が小学校にあがると、わが家の家計はだんだんと苦しくなりました。母はやむを得ず、休日も仕事をせざるを得なくなり、私達姉弟と母が過ごす時間はますます減っていきました。
そんなある時、母親が突然、小学校に呼び出されました。弟が友達を殴って怪我をさせたのです。それだけではありません。学校の花壇をひっくり返したり、友達のサッカーボールを盗んだり、学校を抜け出したり。先生は困り果て、手に負えなくなったそうです。
家に帰った母は弟を呼び寄せ、部屋の間仕切を閉めました。私は母を困らせる弟なんて、うんと叱られればよいと思いました。しかし、間仕切から覗いた向こうには、無言で弟を抱き締める母の姿がありました。弟を膝の上に抱き抱え、体を前後にゆり動かす母の目には、心做しか、生まれて初めて目にする、涙が光っていたようにも見えました。そしてそれ以来、弟が同じことを繰り返すことはありませんでした。
「抱き締める」という会話、それはどんな言葉よりも人の心に届くのだ、ということを母が私と弟に教えてくれました。どんな時でも自分を抱き締めてくれる人がいる…そのことが本当に自分を励まし、自信と勇気を与えてくれます。本当に大切な人が、誰かを必要としていたら、私はどんな言葉よりもまず力いっぱい抱き締めてあげたいです。
感動的な作品です。このお母さんに賞をあげたいと思うくらい、ステキなお母さんに魅力を感じました。お母さんが毎日忙しく働いている中で、お母さんと触れ合いたいという子どもの気持ちと、その子どもの気持ちを受け止めて抱きしめるお母さんの愛情がよく伝わってきます。
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