「願 い」
Middleton Grange School(ニュージーランド) 13年
白石 彩乃
「赤ん坊なんか邪魔じゃん。始末しなよ。」
当たり前のように飛び出したその言葉に、私は絶望した。友達の妊娠が発覚した時のことである。彼女らは自分達が何を言っているのか分かっているのだろうか。たとえ小さくてもその赤ちゃんは今生きている事を理解しているのだろうか。
弟がまだ母のお腹にいた時の事を私は今でもはっきりと覚えている。母に連れられて行った病院で初めて見た弟の姿。スクリーンに写された弟は小さくて丸まっていて、その姿はまるでくびれたイモ虫のようだったが、ドクン、ドクンと心臓が動いていた。お姉ちゃんだよ、と話しかけると丸まっていた彼が少し動いたような気がした。生きている、そう感じた。
たとえ親であっても小さな命を奪う権利は私たちにはない。いつから中絶と呼ばれる人殺し行為が珍しくない社会になってしまったのだろう。お腹の中の小さな赤ちゃんは今も生きているんだよ。あなたが親に愛されたいと17年間願い続けて来たように、お腹の赤ちゃんもあなたに愛されたがっているんだよ。しかし、私の想いは彼女に届かなかった。今私は、名前も付けられずに小さな空の星となったあの子が天国で幸せであって欲しいとただ祈っている。
私は週に一度、ベビーシッティングのボランティアをしている。そこで私は毎回欠かさず全ての子供たちを抱きしめて、いい子だね、大好きだよ、と声をかける。私の愛は、彼らの両親のものとは比べ物にもならないだろう。でも、それでもいい。彼ら一人ひとりが、自分は誰かに愛されている大切な存在だということ、命を与えられて生まれてくるというのはそんな素敵なことだということを少しでも感じてくれると嬉しい。まだ小さなこの子供たちが将来大きくなった時、命の重みの分かる人になって欲しい。そう願い、私はこれからも彼らを抱きしめ続ける。
「友だちの妊娠」という身近で起こった問題を受け止めて、短い文章の中で印象的にまとめています。単なる疑問や不満では終わらず、ベビーシッティングのボランティアをしていることと結びつけて具体的な話を入れている点が良かったと思います。願いをこめて子供たちを抱きしめる作者の思いが伝わってきます。
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