「小さなライバル」
啓明学院高等学校 3年
村田 冴
私は、手話通訳士を目指し勉強している。昨年の冬、卒業した小学校の先生から、障害児学級の5年生で手話を習いたい子がいると相談を受け、その子に会いに行った。私が教室に入ると、人懐っこそうなおかっぱ頭の女の子が駆け寄ってきて、「私は、あ・お・い・です。」とおぼつかない手話で挨拶をしてくれた。「好きな動物は何?」と聞いてみると、「今日、ドッチボールしたよ!」と元気良く返ってきた。明るい子だ。でも、こんなちぐはぐなやり取りでやっていけるか不安になった。が、とりあえず週1回、1時間だけ葵ちゃんの家で手話を教えてみることにした。
初日、私の心配をよそに、葵ちゃんとしっかり手話の基本が勉強できた。そして驚いた事に、次の週には全部覚えてきた。勉強したことを忘れないように、お母さんや先生を捕まえて、毎日練習していたのだ。葵ちゃんの頑張りはすごかった。8ヶ月経った今、簡単な日常会話なら出来るようになった。
手話にもその人の性格が表れる。葵ちゃんの手話は、ふんわり優しく、指先から一生懸命さが伝わってくる。葵ちゃんが見せる『ももたろう』の「まぁ、大きなももだこと!」の手話は、たまらなく可愛くて思わず笑ってしまう。いつの間にか葵ちゃんの障害が、私には個性に見えてきた。
先週のこと、私の自転車の音を聞きつけると、必ず外へ飛び出してくる葵ちゃんが、出て来なかった。玄関を開けると、「葵は、緊張して今トイレに入っているの。」とお母さんが笑っていた。実は、毎回そうだったのだ。私にとって、あっという間の1時間でも、葵ちゃんにとってはとても長くて、自分の集中力と闘っていたのだ。私の前では、にこにこと手話を習う葵ちゃんがいじらしく思えた。
そんな葵ちゃんが、手話検定を受けると言い出した。自分の世界だけにいることが多かった彼女の初めての挑戦だ。葵ちゃんは、また一歩踏み出した。私も負けてはいられない。
よくまとまっているかわいらしい作品です。作者と葵ちゃんの手話を通しての交流がイキイキと描かれています。葵ちゃんの「まあ、大きなももだこと!」の部分では、目の前に葵ちゃんが一生懸命手話をしている光景が浮かんできました。ただ、「人懐っこそう」「おぼつかない手話」「私も負けてはいられない」といった型にはまった表現が使われている点が残念です。もっと自分の言葉で表現できるようになれば、さらに良くなるでしょう。
|
▲UP
|
Copyright (c)2007 Nihon Fukushi University. All rights reserved. 本ホームページからの転載を禁じます。