「竹じいちゃんの花」
山梨県立身延高等学校 3年
山口 恵
小さい頃の口ぐせは、「秘密の場所に行ってくる。」だった。
ランドセルをおろすとすぐ、友達と秘密の場所に行っていた。秘密の場所なんて格好いい風に言っていたけれど、実際には私の家の近くにあった竹やぶを自分達で改良した秘密基地的なものだった。
家の近所に、「竹じいちゃん」と呼んでいたおじいさんがいた。竹をつかって色々なものを作っていた事からそう呼ばれていた。竹じいちゃんは私達の秘密の場所作りを手伝ってくれていた人物だ。竹じいちゃんは竹でイスを作ってくれたり、水でっぽうを作ってくれたり、私達をいつも笑顔にしてくれていた。
ある日、いつものように秘密の場所に行くと竹じいちゃんは既にいて、一本の竹をじっと見ていた。
「みんな、ちょっと来てごらん。」
竹じいちゃんが皆を呼んだ。私達は竹じいちゃんの周りに立って、竹じいちゃんの見ていた一本の竹を同じように見た。すると、
「これは竹の花だよ。竹は死ぬ時になると最後の力を振り絞って花を咲かすんだよ。」
と、竹じいちゃんが私達に教えてくれた。この竹は死んでしまうんだ。そう思ったら悲しかったけれど、竹じいちゃんは「めったにない事だからよく見ておきなさい。」と私達にいつもの笑顔で言った。
それから何年かたって、竹じいちゃんが救急車で運ばれた、という知らせが入った。次の日、竹じいちゃんは亡くなってしまった。お通夜の日、奥さんに私達は竹じいちゃんの寝室に呼ばれた。「これ、おじいちゃんが皆にって作ってあったの。」と手渡されたのは、竹トンボだった。ちゃんと人数分、名前も書いてあった。私は、竹じいちゃんの花が咲いたのだ、と思った。
今でも時々、秘密の場所へ行く。なぜか今でもそこは綺麗だ。それは竹じいちゃんがいつでも待っていてくれるからだと思っている。
素直に書かれていて、読んだ後に心が温かくなる作品です。「竹じいちゃん」と「竹の花」をうまく組み合わせて、エッセイとして非常に良くできていると思います。竹じいちゃんと子どもたちが交流している光景が目に浮かんできます。「めったにない事だからよく見ておきなさい」という竹じいちゃんの生き方に対する考え方が短く、よく表現されている点もいいと思います。そして、1回だけのできごとではなく、長い期間にわたっての交流を取り上げた点も評価しました。
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