あなたの体温を、伝えてほしい 36℃の言葉 2005年度 第3回高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集

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審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
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入賞者発表
第3分野 私が暮らすまち

優秀賞 「敬老の日の花鉢」
立命館高等学校 二年 ヤナギ澤 佑加子

 台風の前兆か、横殴りの雨に差していた傘は全く役立たず、私は濡れねずみになった。
「切り花の方がきれいだし、配るのも軽くて楽やん?」と少しいらいらして言うと、母は
「お年寄りが、この鉢植に水をやって育ててくれる。来年も花が咲くというところがいいねん」と微笑んだ。
 その朝、地域の社会福祉協議会の支部長をしている父が、母とたくさんの花鉢を自動車に積んでいた。その日に限って早起きをした私は、軽い気持ちで花鉢を届ける役目を引き受けてしまった。鉢の重さと雨風で体が冷え、この役目を後悔しはじめていた時、路地の奥の家の前で、九十才すぎのおばあさんが、
「待ってたで。そろそろ持って来てくれると思った。毎年この日を楽しみにしてるねん。雨の中、ありがとさん」また、
「ご苦労さん。こっちが去年もらった鉢で、そっちがおととしにもらったもんや」
と大切に育ててくれているおじいさんもいた。
 ある家では、
「敬老の日、おめでとうございます。これからもお元気でいて下さい」と言うと、
「今年は鉢一つでいいねん。じいちゃん、先月、亡くなってん…」と、おばあさん。その玄関先に去年の鉢が二つ並んで置かれていたのを見て私は、申し訳なくて何も言えないでいると、「来年もたのむで」とにこっとして言われたのでほっとした。
 この時、母が話してくれた「敬老の日の花鉢」の本当の意義が分かった。
 私の住んでいる山城町人口九千人余り。高齢化率二十パーセント。日本で非常に高齢化が進んでいる町の一つだ。茶処で、美しい自然と椿井大塚山古墳で知られる歴史の古い町でもある。けれど、時代の流れか、近隣二町との合併の話し合いが進んでいる。子育て支援や高齢者支援は、鉢植の花のように、手から手へ声かけとぬくもりのあるものを合併して「市」になっても続けてもらいたい。


講評
 高齢化の話を「花鉢」という視点でうまく描いた、よくまとまった作品です。「 」の中のおばあさんの言葉が生きていて、気持ちのよい読後感を味わえます。何の話が始まるんだろうという期待感を演出するすばらしい書き出しにくらべると、最後の結論はやや平凡です。また、日本の高齢化率は、平均でも20パーセントに達しています。山城町で高齢化が、とくに進んでいるとはいえないのではないでしょうか。
講 評


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