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「夕焼泥棒」 |
桃山学院高等学校 三年 河野 あゆみ |
できたから気付くもののありがたみがある。たとえば、口内炎。たとえば、あのマンション。
夕焼泥棒は、突然に現れた。
私のお気に入り、この校舎の七階から眺める夕焼。奥まで並んだ、低くて小さな屋根屋根に光の粒を躍らせ沈む夕陽は、空を、雲を赤く染めた。幾度となく目を奪われた。極上の夕焼だった。
だのに、夕焼泥棒は突然に。
学校の向い隣にマンションが建った。それも、ちょうど西側の九階建て。今では、だんだんと橙に染まりゆく空がかすかに滲んで見えるばかり。おこぼれだ。夕焼は食べられてしまった。しかし考えてみれば、当然のことだ。最寄りの駅から徒歩五分、大阪の中心に近く、大きな通りに面している。どうして今までマンションが建たなかったのかが不思議なくらいだ。こうして、街は栄えてゆく。当然のことだ。
あのおじいさんが子供だった頃、この辺りに広がっていたのは畑であって、きっとアスファルトではなかっただろう。あのおばさんが子供だった頃、この辺りに軒を連ねていたのは長屋であって、決して高層の建物ではなかっただろう。今では誰もが泥棒だ。横取っていることにすら気付かない。そう、気付けない。もしや、この校舎も、背中の人たちの夕焼をぱっくり食べてしまったのか。さすれば、真の夕焼泥棒は、私だ。気付いたときにはもう遅い。二度と再び取り戻せない。横取った夕焼を、さらに横取られてしまった。奪い、奪われ、行き着く先は一体何処だというのだろう。
あのマンションの住人は気付くだろうか。自分が泥棒であることを。いや、きっと気付けない。失うまでは。
夕焼泥棒は、誰だ。 |
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都市の再開発の話が応募作品の中にたくさんありましたが、校舎から眺めた風景や身近な出来事といった自分自身の体験を描いた点に説得力があり、この作品を評価しました。冒頭に例として挙げられている「口内炎」など、表現に疑問を感じる点もありますが、何よりも「夕焼泥棒」というタイトルが秀逸でした。 |
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