あなたの体温を、伝えてほしい 36℃の言葉 2005年度 第3回高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集

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審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
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入賞者発表
第4分野 社会のなかの「どうして?」

審査員特別賞 「ありがとうの力」
北陸学院高等学校 三年 向郷 遥

 言葉には温度がある。あたたかい時もあれば冷たい時もある。人間の体と似ている。人の体温は約三十六度。私はこの温度が好きだ。人の体温を感じたとき、私は安心する。赤ちゃんは母親の腕に抱かれて眠っているし、街を歩くカップルは手をつないでいる。みんな三十六度に安心を感じている。
 私にはひいおばあちゃんがいた。四年前に亡くなってしまったが、ひいおばあちゃんの死は、私に二つの三十六度を教えてくれた。
 四年前、病室の空気は重かった。ひいおばあちゃんはその三年以上前から入院生活をしていた。とても強い意思を持った人で、病気にも堂々と立ち向かっていた。私が見舞いに行くと、必ず笑顔でむかえてくれた。そのひいおばあちゃんが今、目の前でこの世を去ろうとしている。私が隣で、泣くのをこらえていると、ひいおばあちゃんは私の手を握った。その手はあたたかい。三十六度だ。私が何度も抱きしめられ、つないだ手。しわしわで、そこから歴史を感じた手。
 「遥、ありがとう。本当ありがとう。」
 力なくひいおばあちゃんが言った。涙がとまらなかった。私はこんなにきれいな「ありがとう」の五文字を聞いたことがなかった。その五文字はあたたかい。ひいおばあちゃんの手もあたたかい。二つの三十六度を私は今でも忘れたことはない。しかしその手はだんだんと冷たくなってしまった。
 「ありがとう」は魔法の呪文だ。人の心をあたたかくする。三十六度に一番近い言葉だと信じている。周りを見ると、その呪文を言える人が少なくなったように思う。もう一度考えてほしい。言葉にも温度があること。あなたの一言で幸せになれる人が必ずいること。あなたと手をつなぐことで、安心する人がいるということ。
 ひいおばあちゃん。私はあなたのような、三十六度の言葉を使える女性になるからね。


講評
 コンテスト全体のテーマである「36℃」をキーワードに、自分の経験をうまく表現しています。ひいおばあちゃんと別れる切なさが行間から感じられました。また「ありがとう」という言葉が、私たちの周りから急速に消えつつある現状を考えると、よい着眼点だと思います。ただ、第四分野の“社会のなかの「どうして?」”の観点でみると弱いところがあります。第一分野や第二分野であれば、もっと高い評価を得ていたかもしれません。
講 評


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