イメージ タイトル
学長メッセージ
審査員の評価と感想
受賞者紹介
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 みんなが暮らすまち
第3分野 国境を越えた交流
第4分野 社会のできごと「どうして?」
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
TOPに戻る


入賞者発表
第2分野 みんなが暮らすまち
優秀賞 「〜Sing a song!〜」
岩手県立釜石南高等学校 二年 矢浦 清香
 いつものこと、夜バスを降りると、どこからか誰かが歌っているような音が響く。もしやと、友人と顔を見合わせ家へと近付いて行く。友人と別れ、家の前で足を止めた。我が家から太い大きな声が突き抜けてきた。「やっぱり…」その声の主は私の兄だった。
 兄は歌うことが得意だ。しかも本人は、自分は上手だと思っているのだから、窓が全開だろうが何だろうが、独特の声と拍子でのど自慢をする。おまけに、童謡・ポップス・演歌・シャンソンもどきまで、と幅広い。最近は、フォークソングがお気に入りである。
 ところで、私の家の目の前には特老ホームがある。五年前にできたそこからは毎日、職員と利用者の声が聞こえてくる。また時には、地元歌手や小学生が訪れ、歌声を披露していく。どうしても音が漏れるが、「うるさい」とか「近所迷惑だ」とかマイナスの面ばかり言う人はいない。かえってその気配から、老人達の楽しそうな姿を思い浮かべたりする。ここに特老ホームがあるのが当たり前、という程、この地域になじんでいる。同様に、どでかい兄の歌声のことを、プラス要素として受け取ってくれる人もいる。なんでも、一本調子の大声が、聞く人にパワーを与えるらしい。兄は障害者だ。障害が身体・知的と重なって、傍から見れば不自由さを感じるが、でも兄はいつも明るく前向きだ。そんな兄の歌を聞いていると、やっぱり愉快で元気が出る。
 私の住んでいるこの地域は、兄が兄らしく、歌で自分を自由に表わせる環境にある。それだけ、周りの人達に支えられ、認めてもらってきたからだろう。その点で、関わってくれる人々にとても感謝している。ところが、少し範囲を広げるとどうだろう。今まで通り、将来も兄が毎日を生き生きと暮らしていくには、色々と壁がありそうだ。
 さあ! 高校生の私も真剣に考えたい。これから何が必要で、何を変えるべきかを。
  講 評
 お兄さんへの愛情がひしひしと伝わってきて、読んでいて温かい気持ちになる作品です。舞台を見ているような臨場感があり、書き手の気持ちがよく伝わってきます。そして、お兄さんに対する気持ちだけでなく、老人ホームにまで視点を広げたことで、うまく街の雰囲気を伝えています。ただ、結びの「さあ!高校生の私も真剣に考えたい」以降が唐突。もう少し具体的に自分の考えを書けば、さらに魅力的なエッセイになると思います。

Copyright ©2003 Nihon Fukushi University. All rights reserved.
本ホームページからの転載を禁じます。