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はじめてのふくし

「ふくし」の課題を考えてみましょう

「ふくし」の対象になる人は、障害者や高齢者など限られた人たちだけではありません。普通にくらしている人たちにも「ふくし」は必要なものです。例えば年金についても、単に老後の生活を支えるというだけでなく、それを支える若い人たちの問題でもあります。そのほか教育や自然環境など、あらゆる領域で「ふくし」の課題が取り上げられています。 これからそのいくつかについて考えていきましょう。

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(1)高齢者の生活を支える制度はどうなってるの?

1. 高齢になって働けなくなったときはどうするの?

電車やバスには、優先席がもうけられています。みなさんは、お年寄りや体の不自由な人に席をゆずった経験があると思います【コラム5】。人を思いやる心は大切です。しかし、それだけでは、高齢者や障害のある人たちが安心してくらせるようにはなりません。

日本では、老後は公的年金によって生活が支えられる仕組みになっています。公的年金というのは、自分たちの積み立てたお金(年金保険料)と税金などでまかなわれるもので、老後に毎「年」、一定のお「金」を受け取ることができる制度のことです。私たちの年金は大きく分けて(A)国民年金(基礎年金)、(B)厚生年金、(C)共済(きょうさい)年金の3つの種類があります([図2]参照)。

ところで、こうした年金の財政見通しは、かなり厳しい状況です。その原因は少子高齢化の進展や経済成長率の低下があげられます。前者は保険料を負担(ふたん)する若年者が少なくなることから若者一人あたりの負担(ふたん)が増大する問題、後者は長引く景気の低迷による保険料の未納や不払いによる問題など、大きな課題をかかえています。このため、これからは保険料が大幅に上がるのに対して、年金でもらえるお金はかなり少なくなるといわれています。また、年金を支払うお金を国が確保するため、消費税など税金のアップが検討されています。[図3]に示されるように、日本人の人口ピラミッドは、現在の若い世代が多くお年寄りになるにつれて減っていく「釣鐘つりがね型」から、2050年には、高齢者が多く若者が少ない下すぼまりの「つぼ型」に変化します。このため少数の働き手で、たくさんの高齢者の年金や介護(かいご)を支える体制をどのようにつくっていくのかが、大きな課題となっています。

2. からだが不自由になったときどうなるの?

年少人口(0~14歳)は今後も減少を続け、2025年には1 , 4 0 9 万人、総人口比1 1 . 6 %となります。一方、その年には介護(かいご)の必要な高齢者が5 3 0万人にものぼるといわれています。そのため、介護(かいご)するための経済的負担(ふたん)、介護(かいご)を続けていく中で起こるかもしれない身体的、精神的な負担(ふたん)が、高齢者をかかえる家族に重くのしかかることになります。こうした不安を解消するために介護(かいご)保険制度が生まれました。40歳以上の人たちが保険料を毎月支払い、原則として65歳以上になってからだが不自由になったり、認知症痴呆(ちほう)がはじまったりしたときには、その程度に応じて介護(かいご)サービスが受けられる仕組みです。自宅での介護(かいご)サービスが受けられますし、高齢者の施設(特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど)や病院の世話になることもできます(5、「ふくし」の仕事参照)。自分で身の回りのことができなくなり、お金の管理もできなくなったような場合には、社会福祉協議会などの福祉サービスを受けたり、成年後見(せいねんこうけん)制度といって、信頼できる人に代理を頼んだりする制度もつくられています。

3. まだまだ働けるのになぜ高齢者の仕事は少ないの?

高齢者といってもみんな介護(かいご)が必要なわけではありません。むしろ、健康なお年寄りのほうが多いくらいです。ですから、まだまだ働けるのに仕事がないほどつらいことはありません。高齢者はお世話を「される人」とは限りません。長い人生でたくわえられた知恵や技術があります。その知恵や技術を生かすことはとても大切なことです。しかし、高齢者には、単純な仕事やパートタイムでの仕事はあっても、就職先は限られているのが現状です。定年退職になる60歳前後と年金が全額もらえるようになる65歳までのあいだ、生活費のやりくりに苦労している家庭はとても多いのです。高齢者の人たちの知識や経験が生かせる仕事、また、健康な高齢者が若い人たちと同じようにできる仕事はたくさんあります。高齢者が働ける環境をつくっていくことが大事です。

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(2)だれもが安心してくらせる街とは?

高齢者も障害者も、そうでない人も、ともに生きる社会こそノーマル(普通)だという「ノーマライゼーション」という考え方は、ずいぶん広まってきました。それでもまだまだ高齢者や障害のある人にとっては不便なことは多く、バリアフリー(障害のある人が社会生活していくうえで障壁(しょうへき)〈バリア〉となるものを除去すること)は十分ではありません。平成17年版障害者白書によると、全国に身体障害者は約352万人、知的障害者は約46万人、精神障害者は約258万人とされています。しかし、障害があろうとなかろうと同じ人間です。また、人はだれしも高齢になるにしたがい不自由なところが増え、病気や交通事故で自由が奪われることもあります。障害者・高齢者の不自由を少しでも取り除いて、すべての人が同じような条件で生活できるようにするために、社会的制度の整備はもちろん、生活環境や情報システムを使いやすくするといった技術的な進歩が必要となります【コラム6】【コラム7】。

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(3)増えている児童虐待(ぎゃくたい)、不登校、非行

1. 子どもの虐待(ぎゃくたい)はなぜおこるのか

少年院や児童自立支援施設に入っている子どもの過半数を受けた経験があるという報告がされ、虐待(ぎゃくたい)を受けた子どもと非行の関係に注目が集まっています。虐待(ぎゃくたい)通告件数は2 0 0 4 年には3万3 , 0 0 0 件に達し1 0 年前の29倍近くとなり、虐待(ぎゃくたい)によって週に1人が亡くなっています。虐待(ぎゃくたい)はなぜ起こるのでしょうか。第1のキーワードは、「孤立した子育て」に原因があります。母親は子育てに熱心なのに、夫や親など身近な人たちの協力が得られないと、子育てが不安になってしまうかもしれません。第2は、親自身がかかえている問題です。加害者となった親や暴力の被害者であることが少なくありません。うまく人間関係が結べないとき孤立していきます。 第3は、子ども自身がかかえている問題です。目にみえる障害だと手をさしのべやすいのですが、最近注目されてきたADHD(注意欠陥・多動性障害:落ち着きがなかったり授業に集中できなかったりする障害)などの障害は見た目には判わかりづらいものです。こういった目に見えない障害は、子どもの発達の状態をていねいに見きわめた適切な支援が必要です。という暴力とならんで、夫から妻への暴力(DV=ドメスティック・バイオレンス)が増えています。もちろん、子どもへの影響も大きく、着目する必要があります。

2. 不登校はなぜ起こるのか

不登校の問題は以前からずっと続いている古くて新しい問題です。現在、その数は12万人を超えており、急激な減少は今のところ期待できそうもありません。また、成人のひきこもりは50万人とも100万人ともいわれています。中高校生で不登校になる中心的なタイプは、周りの期待に応えようと勉強しすぎるあまり、プレッシャーに負けて燃え尽きてしまう人たちと考えられています。「勉強しなくては」「学校へ行かなくては」と思う気持ちと、「行きたくない」という気持ちに心が引き裂さかれてどうしたらいいのか分からなくなるのです。腹痛や下痢(げり)といった身体の症状(しょうじょう)があらわれて、学校を休む場合が多いようです。たしかに勉強は大切ですが心の病気になってはなにもなりません。あまり肩に力を入れないで気持ちを楽にしていくことが大事ですが、思い込みからの解放は簡単ではありません。

3. 凶悪(きょうあく)な事件は増えているのか

凶悪な犯罪の報道がされるたびに、少年非行の凶悪(きょうあく)化がさけばれます。しかし、実際に凶悪(きょうあく)事件は増えているのでしょうか。凶悪(きょうあく)犯や粗暴犯(そぼうはん)のピークは昭和30年代です。殺人事件は、ピークには440件を記録しましたが、ここ20年以上は100件前後です。一方、10~15年の短期統計で見ると、青少年による路上での強盗が増えています。いわゆる「かつあげ」や「ひったくり」です。 非行で一番多いのは万引き、自転車・バイクドロボーが多く、見つからない、みんながやっている、見つかれば弁償すればよい、といった軽い気持ちでおこなわれているところに大きな問題があります。高校中退者は毎年10万人いた2001年までよりは減少したものの在学生に占める割合は2%を超えています。少年たちが学校の中に居場所を失っていることも少年の非行化に大きく影響しています。もともと思春期・青年期はキレやすい時期といわれ、問題を起こしてしまう青少年は少なくありません。凶悪(きょうあく)な問題にだけ目を奪われるのではなく、身近なところで起こっている問題をどのように解決していくかを考えていく必要があります。

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(4)路上生活者(ホームレス)をどのように見ていますか

ホームレスはなまけものですか。不潔な人ですか。かわいそうな人でしょうか。みなさんは、どんな目でホームレスを見ていますか。厚生労働省の2003年1月~2月の調査によると、ホームレスは全国で約2万5,000人。大阪、東京、名古屋などの大都市圏に多く、約40%の人たちが街の公園で生活しています。平均年齢は56歳で、圧倒的に男性が多いのですが、女性も3%います。64%の人は廃品回収などで収入を得ていますが、1日3回の食事ができる人は30%もいません。76%の人が5年未満のホームレス期間で、過半数は結婚していた人です。そして、少なくとも65%の人は何らかの仕事を得て働きたいと願っています。『豊かさの条件』(暉峻淑子,岩波新書, 2003)という本の中で紹介されている原昌平さんの文章は、ホームレスについて深く考えさせられます。少しやさしく表現をかえて紹介します。 「ホームレスの人たちが受けているきびしい体験は、けっして彼らが変人であるとか、家族の人間関係がうすいからではありません。原因は、失業によってお金がなくなったからです。仕事を失い、そのことで家族関係がうまくいかなくなり、貯金をつかいはたし、住むところがなくなり、そして身体や心を病(や)んでいきます。 自分の積み重ねてきた人生が次々に失われ、ひとりさびしく自分のふがいなさに落ち込み、睡眠不足、栄養不足、寒さ、衛生状態の悪化、アルミ缶や古(こ)紙を回収してわずかのお金をえる困難、食事や寝場所を確保するための仲間うちの争い、盗難(とうなん)や襲撃(しゅうげき)に対する警戒(けいかい)心に悩まされます。24時間、ストレスの連続で安心できるときはなく、将来への希望もありません。そのうえに道行く人たちから、ばかにしたりあわれんだりする視線を受け、それだけでなく、ときには暴力的な襲撃(しゅうげき)も受けます。そしてそれらに耐えられなくなった時、生き延びることをやめる自殺があるのです」。人間らしい生活ってなんだろう。ホームレスに関する原さんの文章は、あらゆる角度から「ふくし」を考えなければならないことを物語っています。とりわけ、経済の仕組みをきちんと学ぶことで、なぜ仕事がなくなりお金のない状況になってしまうのか、ということを考えていくことが大事です。

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(5)自然や生活の環境がこわされていませんか

自然環境を守ることは、大きくとらえていえば「地球にとってのふくし」です。私たちは「地球」上で生きています。地球があるから経済も文化も教育もあるのです。この地球の環境を破壊することは私たちの生活やいのちを破壊することでもあり、わたしたちの「ふくし」、つまり「幸せ」も失われます。 高橋裕さんの『地球の水が危ない』(岩波新書, 2003)という本は、人が生きるのになくてはならない水を通して自然環境の大切さを教えてくれます。この本には、1970年代以降、環境問題の関心が高まったことで、地球規模で水問題がつよく意識されるようになったと書かれています。

こういった多くの問題が取り上げられていています。日本では水問題への関心がうすく、飲料水として上質な水道水があるのに、ペットボトルの水を輸入してまで飲む傾向にも問題を提起しています。 また、石弘之さんの講演〔注〕では食料と自然環境についての問題が提起されました。ハンバーガー用の肉牛を育てる牧場にするために熱帯林を伐採(ばっさい)した結果、熱帯林が丸裸となったコスタリカのはなし、収入を得るために山林を伐採(ばっさい)してトウモロコシ畑を作った結果、土地が養分を吸い取られ荒地となったタイのはなしなど、多くの問題が伝えられました。 また、ダイオキシンによる大気汚染(おせん)、過剰消毒の輸入食品による健康への影響、ゴルフ場建設で山を追われた猿が畑を荒らすなど、自然環境について考えさせられる話題は私たちの身近に少なくありません。 環境破壊の問題が取り上げられる一方で、地球の環境を守るために、日本はもちろん世界中でさまざまな対策や活動がおこなわれています。 狭い国土にあふれる車公害を解消するため、将来、ガソリンスタンドを水素ガススタンドに変えようと、つまり水素+酸素=水にして汚染(おせん)を防ぐ研究が現実のものとなっています。また分別ゴミ収集でゴミ焼却量を減らす努力をしています。さらに天然水を大切にするための対策も難しいことですがとても重要です。 こうして幅広い分野で「ふくし」の実現がはかられています。しかし、まだまだ完全ではなく、これからもなお一層、「ふくし」を浸透(しんとう)させていくことが重要です。 いま、地球の寿命を短くしない「ふくし」が求められているのです。 〔注〕石弘之さんの講演内容は、1998年7月5日に日本福祉大学後援会10周年文化講演会で話されたものです。 石さんは当時、東京大学大学院総合文化研究科教授でした。

まとめてみよう

いくつかある「ふくし」の課題の中から1つ選び、それについて自分が感じた点や自分の考えについてまとめてみよう。

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