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はじめてのふくし

「ふくし」の歴史

むかしから多くの人が、困(こま)っている人びとに手を差しのべてきました。例えば『銀河鉄道の夜』などの作品で有名な宮沢賢治は、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない……われらは世界のまことの幸福を索(あなぐ)ねよう……」(『農民芸術概論綱要』筑摩書房, 1997)と訴えています。そして、いつの時代も人びとは助けあって生きてきました。人びとが助けあう歴史は人類の歴史といっても言いすぎではありません。「ふくし」という目で日本の歴史をみると、聖徳太子の時代には、すでに施薬院(せやくいん)(貧しい病人に薬を与えるところ)や悲田院(ひでんいん)(孤児(こじ)や病人の世話をするところ)など4つの施設がつくられています。

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世界に目を移しても、ローマの圧政に苦しんだキリスト教徒は、信者の相互扶助(そうごふじょ)(助け合い)をおこないました。
こうした救済を慈善(じぜん)といい、ほかの宗教でも慈善(じぜん)活動がおこなわれてきました。現在でも、社会福祉の事業をおこなっている宗教団体が多いのは、慈善(じぜん)活動の伝統があるからです。バザーもまた、こうした歴史から生まれました。
慈善(じぜん)活動は、裕福な人が貧しい人や恵まれない人にお金などを与えて援助するものです。最初は、個人的な活動でしたが、次第に、援助するためのグループが生まれてきました。また、貧困(ひんこん)や病気は、個人的な問題ではなく、社会がつくりだした問題だというように理解されるようになり、社会的に恵まれない人たちを援助しようとする活動が生まれました。さらに、学生が地域住民とともに地域のさまざまな問題を解決していきながらお互いに成長していこうという「セツルメント」という活動もあります。これは、恵まれない人たちの生活を後押(あとお)しして、自分で生活できるように援助する活動としてはじめられたものです。
これがヨーロッパでの「社会事業」のはじまりです。
みなさんは、民主主義社会が生まれるキッカケとなったフランス革命(1789年)を知っていますか。フランスの三色旗に示される「自由・平等・博愛(連帯)」は、対等平等な個人が、互いに支えあって生きることの重要さを教えてくれています。

アメリカ大統領リンカーンは、国民の一人ひとりが主人公であり、黒人を差別しないように訴えました。このような動きが、差別をなくし、弱い者を支える考え方を社会的に強めてきたのです。 スウェーデンは、「自由・平等・博愛(連帯)」を最も徹底した国の一つです。デンマークで生まれたノーマライゼーション(ハンディキャップがあっても同じ条件で生活できるようにすること)という考え方はスウェーデンで広がりをみせ、大きな影響を与えました【コラム4】。このように日本でも世界でも、人々は人間の幸せのためにさまざまな仕組みを考え、活動を続けて今日をむかえています。 「社会力」という言葉があります。社会学者の門脇厚司さんが、『子どもの社会力』(岩波新書, 1999)という本のなかでくわしく説明しています。社会力とは、要約すると、「他人に関心を持ち、関係しあって、互いに支え合う力」です。現代社会は「つながり」が弱くなっているといわれます。家庭にひきこもったり、仕事や社会生活から遠ざかったり、他人と関係することがわずらわしく思ったりする人が増えていくと、社会力はおとろえていきます。「ふくし」の歴史は、社会力に支えられ、ノーマライゼーションを実現する方向に動いてきています。

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