【伊藤 稔基さん】言葉を超えて子どもと向き合った、4年間の挑戦

PROFILE

スポーツ科学部 スポーツ科学科/4年

伊藤 稔基さん

 海外の貧困地域での教育支援や、愛知県・美浜町教育委員会と連携した「トワイライトスクール(インクルーシブ運動教室)」、競技スポーツへの挑戦など、学内外で多様な活動に取り組んできた伊藤稔基さん。全国規模の海外教育支援活動では団長を務め、組織を率いる難しさと向き合いながら、大きな学びを重ねてきました。今回は、そうした経験を通して得た気づきや、教員を目指す思いについて、お話しいただきました。

全国規模の海外教育支援で直面した壁と、関わり方の転換

原田学長 伊藤さんは在学中、学内外で本当に多様な活動に取り組んできました。その中でも、特に自分自身の考え方や行動が大きく変わったと感じる経験について、まずは聞かせてください。

伊藤さん 一番大きかったのは、海外教育支援ボランティアです。2年生から参加し、3年生では全国10大学から集まった約200の学生をまとめる団長を務めました。実際にカンボジアへ渡航するのは50〜60人ほどでしたが、全体を見渡す立場になったことで、責任の重さを強く感じました。
 当初は「リーダーは前に立って引っ張るもの」だと考えていました。活動を止めてはいけない、失敗できないという思いが先に立ち、強い言葉で指示を出すことも多かったと思います。ただ、その分、メンバーの表情が硬くなり、距離を感じるようになりました。このやり方で本当に良いのか、自分自身に問い直すようになったのです。

原田学長 全国規模の組織を率いる立場で、そうした違和感や迷いを抱えた経験は、その後の活動の進め方や、人との向き合い方にも少なからず影響を与えたのではないでしょうか。

伊藤さん そこで、一人ひとりと対話する時間を意識的につくるようにしました。活動への思いや不安を聞き、言葉を受け止めるところから始めると、少しずつ信頼関係が生まれていきました。組織の雰囲気が目に見えて変わっていったことが、とても印象に残っています。「引っ張る」だけでなく、「聴く」こともリーダーにとって大切なのだと実感しました。

原田学長 その「聴く」という姿勢への転換は、伊藤さん自身の内面の変化にとどまらず、現地での子どもたちとの関わり方にも表れていったのでしょうか。

伊藤さん はい。その姿勢は、カンボジアでの教育活動にも生かすことができました。貧困地域の小学校で、体育や音楽、図工などの提案授業を行いましたが、教育環境が十分ではないからこそ、「教える」よりも、まずは体を動かす楽しさを一緒に味わうことを大切にしました。
 言葉はほとんど通じませんでしたが、ボディランゲージで関わり、同じ時間を共有する中で、子どもたちの表情が和らいでいきました。その姿を見て、「言葉がなくても気持ちは通じる」と強く実感しました。

カンボジアで子どもたちと関わる様子
小学校への教育支援の一環として運動会を
実施した際に表彰状をいただいた際の様子

地域と競技スポーツで重ねた、実践からの学び

原田学長 海外での経験に加えて、地域での活動や競技スポーツにも長く取り組んできましたね。それらは、伊藤さんの中でどのようにつながっていったのでしょうか。

伊藤さん 愛知県美浜町の小学校で、放課後運動教室「トワイライトスクール」に1年生の頃から関わってきました。障害のある子どもも含めて一緒に活動する場で、どうすれば全員が安心して参加できるかを、毎回考えながら取り組んでいました。
 日本の子どもたちは、最初は少し距離を取ることもありますが、できた瞬間に見せる喜びや達成感は、カンボジアの子どもたちと変わりませんでした。同じ空間でその喜びを共有できたとき、教育の本質に触れたように感じました。

原田学長 競技スポーツにも継続して取り組んできましたね。バスケットボール部での経験についても、ぜひ聞かせてください。

伊藤さん 男子バスケットボール部には1年次から所属していました。3年次には副主将を務め、練習の進め方や部内の話し合いなど、部のチーム運営に関わる役割を中心となって担ってきました。意見や目標がうまくかみ合わず、チームとして難しい局面を迎えることもありましたが、そのたびに対話を重ねながら、少しずつ課題と向き合っていきました。  そうした積み重ねの結果、2024年に行われた、東海学生バスケットボールリーグ戦2部リーグで優勝することができ、個人としても2025年度の同リーグで得点王を獲得しました。ただ、自分の中で強く残っているのは記録そのものよりも、「チームとしてどう力を発揮できたか」という点です。一人で引っ張るのではなく、周りの声に耳を傾けながら役割を果たす。その重要性を、この競技生活を通して実感しました。

原田学長 チームの中で対話を重ねながら役割を果たしてきた経験は、これまで話してくれた海外や地域での活動とも、自然につながっているように感じます。

男子バスケットボール部で活躍する様子

経験の先に描く、教員としてのこれから

原田学長 大学での学びは、そうした実践を理論面からどのように支えていたと感じていますか。

伊藤さん 教育学や障害理解、指導法、支援法を理論として学べたことが、大きな支えでした。課題やカリキュラムは大変でしたが、実習やボランティアの場で「学んでいてよかった」と感じる瞬間が何度もありました。感覚だけでなく、根拠をもって子どもと関われるようになったことは、自分にとって大きな自信です。

原田学長 そして、いよいよ卒業後は教壇に立つことになります。

伊藤さん はい。4月から大分県の特別支援学校で教員として働く予定です。海外、地域、競技スポーツでの経験、そして大学での学びを生かしながら、一人ひとりの声に耳を傾けられる教師でありたいと考えています。

原田学長 海外、地域、競技スポーツと、立場や場面は違っても、伊藤さんが一貫して大切にしてきたのは、相手の声に耳を傾ける姿勢だったのだと思います。その実践の積み重ねが評価され、学長表彰につながったことを、大学として誇りに思います。これから始まる教員としての一歩を、心から応援しています。