【小嶋 紅葉さん】ユニバーサルデザインの魅力や奥深さ

PROFILE

健康科学部 福祉工学科
建築バリアフリー専修/3年

小嶋 紅葉さん

誰もが暮らしやすい社会の実現を目指し、『福祉×建築』の研究を行っている小嶋さん。ユニバーサルデザインの魅力や奥深さなどについてお話を伺いました。

車いすから広がるバリアフリーの世界

原田学長 小嶋さんはどのようなことを勉強しているのですか。

小嶋さん ユニバーサルデザインやバリアフリーに関心があったので、それらのテーマに関連した研究を行っています。

原田学長 小嶋さんがこの分野に関心を寄せたきっかけを教えていただけますか。

小嶋さん 私は“車いす”そのものが好きで、そこから福祉に関心を持つようになりました。バイク好きとか自転車好きと同じような感覚です。高校生のとき、車いすメーカーの展示会に参加したのがきっかけで車いすの魅力にハマっていきました。車いすが街を走る様子にも興味を持つようになり、そこからバリアフリーにも興味を持つようになりました。

原田学長 車いすを利用する人ではなく、車いすのデザインに興味を持ち、かっこいいなと思ったところが今の学びのきっかけになったのですね。そこからどのようにして“建築”の分野に繋がっていったのですか。

小嶋さん 車いすの展示会などで車いすユーザーの方とのつながりも増えていきました。イベントを通じて知り合った方と、車いすで街中を歩くイベントに参加した際に、バリアフリーが整備されている環境もあれば、全く整備されていない環境もあることに気が付きました。自分の家族が建築関係の仕事をしていることもあり、もともと建築の分野には関心がありましたが、自分自身の経験が重なり、バリアフリーと建築の分野に面白さを感じるようになっていきました。

五感で感じることができる住宅

原田学長 ここには様々な建築模型がありますね。バリアフリーやユニバーサルデザインを活かしたオフィスを作る際に工夫したポイントがあれば教えていただけますか。

小嶋さん この建物はエレベーターですべての階に行けるようになっています。また、すべてのフロアにバリアフリートイレが設置されていたり、車いすの方などがいてもすれ違えるような通路幅にしているなど、ユニバーサルデザインを意識した設計となっています。

原田学長 ユニバーサルデザインの建築物を設計する際、課題と感じるポイントについて教えていただけますか。

小嶋さん 様々な人が利用できることを意識するため、年齢や障害の有無、特性などを意識して設計しなければいけません。バリアフリートイレの設置など、通常の設計よりもスペースを確保する必要がありますが、限りある設計スペースの中で、どのように折り合いをつけていくのかがユニバーサルデザイン設計のポイントだと感じています。

原田学長 たしかにそうですね。住宅模型についてのポイントも教えていただけますか。

小嶋さん この住宅は、4人家族でお父さんが視覚障害者という設定となっています。

原田学長 お父さんが視覚障害という設定は、小嶋さんが自分で考えたのですか。それとも課題として提示されたものですか。

小嶋さん 家族構成や条件などは自由に考えて設定してみました。

原田学長 小嶋さんが一番にこだわったポイント、大事にしたポイントはどんなところですか。

小嶋さん 『五感で感じることができる住宅』ということをコンセプトにしていました。特に、視覚に頼らない住宅にするということを意識して設計しました。例えば、秋になれば金木犀の香りで季節を感じられるような四季折々の樹を植えてみたり、砂利の音から誰かの存在を感じられるような工夫を取り入れた住宅になっています。

原田学長 面白いですね。このようなユニバーサルデザインの住宅を設計するにあたって、視覚障害の特性などを理解する必要があると思いますが、そのような知識は授業で学ぶのですか。それとも独自で調べたりするのですか。

小嶋さん 授業で学ぶこともできますし、独自で勉強もしています。例えば、1年生の時には視覚障害者支援論という講義で視覚障害の特性を学びました。また、手話の授業や建築以外の学科の授業も受講できるので福祉にかかわる知識を幅広く学ぶことができる環境がありました。高校のときから関連科目の勉強はしていましたが、大学に入ることでより一層学びが深まりました。

日本福祉大学への進学と学会での経験

原田学長 大学進学を考えるなかで、日本福祉大学を志望したきっかけを教えていただけますか。

小嶋さん 進路を考えていくなかで、1年生から福祉の授業と建築の両方を学ぶことができる大学を探していました。専門演習(ゼミナール)のなかでは興味関心のある研究テーマを設定することはできるかもしれませんが、福祉に関連した建築や設計に関する講義が充実している大学は『日本福祉大学しかない』と思い、東京から愛知に進学することに決めました。

原田学長 3年生の専門演習で福祉に関連した研究室はあるかもしれませんが、4年間を通して福祉×建築をテーマにした大学は多くはないかもしれませんね。小嶋さんは学会でも発表をされていると伺いましたが、どのような発表をされているのかを教えていただけますか。

小嶋さん 『日本福祉のまちづくり学会』において、発表させていただきました。1年生の時には高校生の頃に経験した車いす体験の活動報告を行いました。今年の全国大会※では『片麻痺者の防火戸の通行に関する実験-麻痺側と扉の開き方が通行に与える影響-』をテーマにした発表を行いました。

※第27回日本福祉のまちづくり学会 全国大会 IN 札幌(2024年8月30日~9月1日開催)

『日本福祉のまちづくり学会』全国大会での発表の様子

原田学長 その研究によって、今後どのようなことが提案できそうですか。

小嶋さん 例えば、火災が起きたときに片麻痺があることによって防火戸を扱うことができずに逃げ遅れてしまうというリスクがあります。有事の際、麻痺の有無にかかわらず、誰もが扱うことのできる防火戸を設計することができれば、命が助かる確率が高まると考えています。

“誰もが使いやすい”の実現を目指して

原田学長 将来は大学院の進学も考えているとのことですが、今後携わってみたい仕事があれば教えていただけますか。

小嶋さん 駅や空港などの公共施設のユニバーサルデザインの設計に携われるような仕事に就きたいと思っています。

原田学長 最後に、小嶋さんが感じている『ユニバーサルデザイン』の魅力や奥深さについて教えていただけますか。

小嶋さん “誰もが使いやすい”というキーワードはすごく素敵だし、大切な考え方であると思います。しかし、真剣に考えれば考えるほど、“誰もが使いやすい”を実現していくことは本当に難しいことだと感じています。例えば、街中でよく見かける点字ブロックのように、視覚障害者にとっては必要であっても、車いすの人にとっては不便を感じるコトやモノもあります。障害等の特性を理解しながら“誰もが使いやすい”を実現していくための解決の糸口を探っていくことがこの研究の面白さだと思っています。また、学会に参加すると、様々な研究者の方との出会いがあります。みんなで頑張ってユニバーサルデザインの溢れる社会を実現しようとする熱意に共感することができ、増々この分野の奥深さや楽しさを実感することができています。