【江村和彦教授】アートと教育の融合

PROFILE

教育・心理学部 子ども発達学科 教授 
学部長/学科長

江村 和彦

保育・幼児教育学科の先生であり陶芸家でもある江村先生。専門性を活かした講義の内容や学外での活動についてお話を伺いました。

創造性を育む保育の学び

原田学長 ここはどんな教室なのですか。

江村先生 ここは保育実習室といって、保育士や幼稚園の先生を目指す学生たちが、実際の保育園のお部屋をイメージできるような教室になっています。例えば、練習してきた手遊びをこの教室で発表したり、子ども役と先生役に分かれて遊びを行ったあと、「あの遊びはどうだった?」などのディスカッションも行います。また、「感性と表現」という私が担当する授業では、机の上ではなく、お遊戯室をイメージできるこの教室で創作活動を行います。例えば、みんなでトイレットペーパーを60ロールぐらい用意して、「全部出しちゃおう!!」みたいなことをします。学生たちも最初は背徳感というか、やっちゃいけないことだと感じている様子でしたが、だんだん慣れてくると、こんなことは多分一生できないだろうと思って楽しむようになっていきます。ただ遊んで終わりではなく、次の週にはトイレットペーパーに水を混ぜて粘土作りも行います。

原田学長 すごく楽しそうな授業ですね。

江村先生 彼らが現場に出ていったとき、はじめのうちは思い切ったことをするのは難しいかもしれませんが、学生時代にやった“思い切った取り組み”を展開してもらえるといいかなと思っています。机のない教室でもできること、遊戯室のような広いところでもできること、『造形』でできることがあるよということを実践を通して学んでいます。

遊びから始まる子どもの表現世界

原田学長 先ほどもお話がありましたが、改めて先生が担当されている科目について教えてもらえますか。

江村先生 保育内容の領域にある“表現”に関連した「感性と表現」、「乳幼児と造形」、「造形表現」という科目を主に担当しています。平たく言えば、図画工作とか、中学校で言う美術にあたりますが、自分が作って評価されるということよりも、将来子どもたちとお絵描きをしたり、粘土で遊んだりするときに、少し昔のことを思い出して、「材料はこういうものがあったよね。」とか、保育士や保育者になったときに子どもたちにどういう展開をしたらどんな楽しい取り組みができるのか、ということを学ぶ科目となっています。

原田学長 実際の保育園に行って取り組むこともあるのですか。

江村先生 そうですね。例えば、現場の先生たちが、子どもたちと絵の具まみれになるような遊びを本当はやってみたいけど、どんな風に取り組んだらいいか迷っている時にきっかけづくりとしてゼミの学生と一緒に行っていますね。私の専門が陶芸なので、大量の焼き物用の粘土をお遊戯室に持ち込んでブルーシートを敷き、全身を使って思いっきり踏んだり叩いたりするような、普段やらないようなこともやっています。単に作るのではなく、素材にまみれて“遊ぶ”ということから始まり、徐々に“作る”ということになり、“描く”ということに繋がっていくことで、表現することはこんなにも楽しいんだよ!と感じてもらえたらいいと思っています。また、現場の先生たちにも、普段からこういう絵を書かせないといけないとか、成果を出さなければいけないなんて思うことなく、子どもたちはこの遊びを通してここまでのびのびするんだよ!ということに気づくきっかけになってもらいたいな、という思いで展開しています。

カラフルバルーンを使った保育園でのワークショップ ※許諾済

未来と古代の融合

原田学長 先生自身もアーティストとして活動されていると思いますが、どのような作品を作られているのですか。

江村先生 私は大学で焼き物に出会い、大学の教員になるまでは主に自分で作った作品を売りながら、大学での非常勤の仕事を掛け持ちしていました。土鍋職人をやっていたこともありますので、小さいお皿からお茶碗、花瓶や土鍋まで、なんでも作っていましたね。その為、自分の発表作品は食器中心になっていました。実は、自分自身がこういった表現の世界に入る元々のきっかけは漫画とかアニメでした。自分は絵が好きでしたので、焼き物の中で好きなモノを表現できればいいな…という思いがずっとありました。それがここ数年展開しているロボットと恐竜などのイメージを組み合わせた『ロボザウルス』です。最近はそんな架空のオブジェの作品を作って発表しています。

原田学長 なんか、先生はガンダムマニアだって噂を聞きましたが(笑)きっと今の作品もその影響が少なからずあるのでしょうね。現在どんな作品を作られてるか、もうちょっと詳しく教えていただけますか。

江村先生 はい。かなり好きですね。ガンダムに出会った小学校4~5年から、もう何十年引きずってるんでしょうね(照笑)最近は、ロボザウルスというテーマの作品を多く作っています。ロボットというと、ガンダムもそうですが、近未来のイメージがある一方で、恐竜は何億年も前の古代のイメージですよね。古いものと新しいものを融合させて、それを1つの作品にするというコンセプトで創作しています。レトロフューチャーという言葉があるのですが、ちょっと懐かしい未来を感じるようなイメージで仕上げをしています。また、4本足のものを2本足で立たせたり、手の形は恐竜ではなくて、人のような手になっていたりと、色もどこか古い遺跡から発掘されたような、焼き物らしくない金属感が出るよう、表現を模索しながら作っています。昨年(2023年)の夏は、名古屋三越で個展をさせていただきました。今年(2024年)の3月には大阪の阪急うめだ本店で、『ANIMAL GALLERY』と題した3人展の1人としてピックアップしていただきました。

江村先生の作品「ROBO-SAURUS(ロボザウルス)」
美浜キャンパス15号館にある特大の作品
阪急うめだ本店で開催された展示会 ※3/27~4/1まで開催

心豊かな学びのキャンパス

原田学長 先生から見て、作品作りと大学で学生たちに教えるということ、そのあたりはどのように繋がっているのですか。

江村先生 そうですね。授業では、比較的分かりやすく教えることに務めています。しかし、自分の作品制作については特に丁寧に教えることもなく、大人が好き勝手作ってるな、あんなもの売れるんだろうかと思われながらも、夢中で何かを作っているおじさんの姿をみて、こんな大人もいるんだっていうところを見せられたらいいなと思っています。

原田学長 これからを考えた時にどんなキャンパスでありたいか、どんなキャンパスにしていきたいか、先生なりに考えていることなどはありますか。

江村先生 日本福祉大学の美浜キャンパスは知多半島の先端にあるので、どうしても地の利が気になるところではあります。ただ、学生たちに「なぜこの大学を選んだの?」と聞くと、「美浜キャンパスののんびりした雰囲気で学びたかったから」とか、「都会で保育を学ぶよりも、自分はこの環境が好きだから」と答えてくれる学生が少なくありません。この環境をフルに活かした保育の学びをここから発信していきたいと考えています。

原田学長 最後になりますが、学生たちに向けたメッセージをお願いします。

江村先生 辛いことがあっても、絵を見たり、映画を見たり、音楽を聞いたりするなかで、「これ面白いな」って思うものが一つあると、気分転換ができると思います。アートに限らずですが、自分自身を表現する楽しさを十分味わうことができる何かを見つけることで、心豊かな大人になってもらえたらなと思います。