【結果および考察】
1) 筋放電量
各測定部位の筋電図の典型例を図 4 に示した. 体位変換動作では上肢が活発に働き, 車いす移乗動作では体幹と下肢の活動レベルが高まっていた. この傾向は
1 秒あたりの筋電図積分値でみた筋放電量 (iEMG/sec) を示した図 5 でもみられ, 特に三角筋の筋放電量は, 体位変換動作の方が車いす移乗に比べて有意に高い値
(p<0.05) を示した. また, 車いす移乗動作においては前脛骨筋の放電量が 5 回以降, 増加する傾向がみられた (p<0.05). 下肢の外側広筋と前脛骨筋は
5 回目の動作以降, 増加する傾向にあった.
これらの変化を 10 回目の動作を基準として相対的にみてみると, 図 6 のようになる. 個人や動作の種類で変動パターンや変動幅に違いがみられ, 一定の傾向は確認できないものが多いが,
介助動作による腰痛症と関連が深い体幹については, @腹直筋は, いずれの動作においても変動が大きい, A脊柱起立筋は比較的安定していて, 変動幅が小さいなどの特徴が確認された.
特に脊柱起立筋においては体位変換動作で筋放電量が一定であるのに対し, 車いす移乗動作では後半に向けて減少 (被験者 AN, IT), もしくは増加 (被験者
TO, MI) するパターンもみられた.
|
|
最大筋力発揮時の iEMG/sec を基準とした相対的評価を試みた (図 7). 筋力発揮の方向や関節角度の違いから最大筋力測定時と各動作時が,
必ずしも同じ力発揮にならないため, 100%を越える値が得られた部位もみられたが, 被験者 MI を除き, 全体的には 60%以下の放電量が多い.
車いす移乗動作では, 外側広筋および前脛骨筋の活動が亢進している者
(被験者 KO, MI) もおり, 脚への負担が大きくなることが示唆された. また, 脊柱起立筋は, 体位変換動作および車いす移乗動作の両方で高い割合を示す者が多く,
相対的に他の筋肉よりも活動レベルが高いことが示された. このことは, 体位変換や車いす移乗などの中腰姿勢で行う介助動作では, 脊柱起立筋への負担が大きく,
介助者は日常的に体幹の筋肉の筋力ならびに筋持久力を強化する必要があることを示している.
|