2.3 主観評価

デバイスに対する主観評価はアンケート調査への記入により行った.高齢者による実験においては,使用したポインティングデバイスの使い勝手について,各デバイスごとに7 項目からなるアンケートに記入していただいた.7 項目は「クリックはしやすかったか」,「ダブルクリックはしやすかったか」,「ドラッグはしやすかったか」,「操作する上で,手が落ち着かないような感じがあったか」,「使用時に,操作で戸惑う事があったか」,「思った通りの方向に動かす事ができたか」,「総合的にこのデバイスを評価してください」である.被験者には各質問に「大変良くなかった」,「良くなかった」,「普通」,「良かった」,「大変良かった」の5 段階で答えてもらった.
また,参考のため評価の理由や改良希望点をあげてもらった.さらに実験最終日に,パソコンを始めたきっかけや苦労した事,一番興味をひかれた事やこれから何をやってみたいかなどを記入してもらった.ただし,今回はその結果については触れない.高齢者実験における対照群(若年者)にも同様なアンケートを行った.評価の理由やパソコンを始めたきっかけなどに関する問いは一部の被験者のみで行った.

2.4 解析

ポインティングデバイスを操作する速さの変化は,学習曲線と考えられる.学習曲線の特性を調べるため,最終到達点と,時定数を数値化する.計算は時系列データ解析ソフト(WaveMetrics:Igor Pro for Macintosh ver 3.14J)を利用した.なお,高齢者実験では,連続した測定における学習曲線を分析した.短期の学習曲線と考えることができる.これに対し,障害者実験では一度に多数の計測を行うと計測に時間をとられてPC の学習に障害をきたすため,各回の計測は最小限にとどめ同じデバイスを継続して使用してもらい,長期的な学習曲線を解析した.
主観評価の解析は,項目間の関係を調べるため主として相関分析をおこなった.また,主観評価の結果のうち総合評価「総合的にこのデバイスを評価してください」と客観評価の結果(飽和時点速度,時定数)とのあいだの相関分析を行った.ただし,障害者実験においてはサンプル数が少ないためこの解析は行っていない.




3.高齢者実験

3.1 方法

被験者は,61 歳〜64 歳の高齢者6 名と,19 歳〜22 歳の若年者7 名に依頼した.高齢者は主にパソコン未経験者(2 名),または初心者を対象とし,週に1 回ずつパソコン学習を指導する事を条件に協力していただいた.そしてパソコンをどのように利用していくか,またどのくらいの速さで慣れていくかを1 週間に1 度,およそ1 年に渡って観察した.若年者は,本学部学生に依頼した.
クリック・ダブルクリック・ドラッグの速さを20 回連続測定する.これを10 種類のポインティングデバイスにて行う.1 人の被験者につき20 回×3ゲーム×10 デバイスの600 回の測定を行った.使用するデバイスの順序は疑似ランダム化した.

3.2 結果

図2 に得られた結果の1 例を示す.これは,1 名の高齢者の2 種類のポインティングデバイスにおける学習曲線である.図左がらくらく4 ボタンでクリック,図右がトラックパッドでドラッグをおこなった時の結果である.右は左に比べ,最初は遅くカーブもゆっくり下がってくる.慣れも遅い事を示している.このような慣れの速度は時定数で表される.グラフの右の方では両者とも同じくらいの時間が必要であることを示している.ゲームの種類が異なるので直接比較はできないが,この2 条件では,十分練習したときには同じ時間で課題ができることを示している.解析では最終到達点(飽和点)での所要時間として表す.
高齢者,若年者それぞれの最終到達点,時定数の平均値を求めた.クリック・ダブルクリック・ドラッグの3 動作をすべての被験者を合わせてある.まず高齢者の最終到達点では,速いグループ(丸型マウス,マウス,マウス2),中間グループ(トラックパッド,P &G ジョイスティック,トラックボール,トラックポイント),遅いグループ(らくらくマウス3 種類)の3 つのグループにわかれた.これはマウスの操作が速くできるという結果である.またマウスという名称がついていても実際はマウスではないらくらくマウス3 種類は練習を積んでも速く操作できないという結果が出た.

 
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