JAM SESSION
STAGE 4

環境教育の展開

● 佐々木
今のお話は環境教育という面からも重要ですね.すでに鯉江さんはそのプログラムを始められていると伺いましたが.

● 鯉江
前々から僕はウインドサーフィンのスクールをやったり,子供たちと海辺で触れ合いながらの教育というのをやってきたわけですけど,ここに来て僕は遊びと教育というのは結構近いものだなという感じがしています.例えば漁師さんたちを見ていると,結構仕事は大変なんだけど,すごく楽しんでおられたり,そこにまたお子さんたちが来て,自然と仕事を覚えたり,親の大変な苦労みたいなものを見るわけですよ.今の教育の話を机上ですると非常に難しくなるんだけど,現場に身を置いてみると非常にシンプル.そういうこともあって,ある環境をつくってあげれば,子供たちが自分で創造したり,判断したり,また観察したいなという意欲が高まってくるわけで,そういうことを海という場でやっていますね.

● 佐々木
昔は生活の一部として自然についての教育が組み込まれていたのが,今はわざわざ環境教育プログラムだといってやらなきゃいけないところが,ちょっと寂しくもありますが,でも世の中が自覚的に取り組むようになったので,私の子供には間に合ってよかったな(笑い).

● 鯉江
例えば僕らがここでやるときは,様々な資料があるものですから,昔の海辺はこうだったんだよとか,海辺に出て海岸線に流れ着いているものを,流木みたいな後で子供たちが工作で使えるものと,ごみとを分けて集める.これは一つのごみ問題の教育にも なるわけですよ.海岸線を歩くとコンクリート護岸やテトラポットになっているわけだけど,これも防災のためには意味があって,灯台は海の信号ですよというような,陸域ばかり見ていた子供たちにできるだけ海辺を見させるわけです.去年の夏には,常滑の小中学生を対象にしたんですが,海に入ったこ とのある人といったら,1 割か2 割ぐらいしかいな かった.

● 佐々木
常滑の子供たちが?信じられない!

● 鯉江
僕もちょっと驚きまして,そんな子供たちにカヌー をやらせたんですが,最初は怖がっていたけれど, 手順を追って指導していくと,一生懸命やり出すし, すごく生き生きしてくる.やっぱり子供たちという のは,適切な環境においてやればどんどん遊びを通 じて学んでいくし,そこで危ないこと痛いこと,自 分で判断することも覚えていくわけです.

● 佐々木
大学生にもぜひやっていただきたいという気がしますね.

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空港の開発とミティゲーション
● 佐々木
この場所は中部国際空港予定地のすぐそばですね. 鯉江さんは空港というビッグプロジェクトが広い意 味でこの辺の環境をどのように変えていく,あるい は変えていきたいと思っておられますか?

● 鯉江
ここの場所に拠点を構えたというのは,一つは自 分がずっと知多半島の海や自然に育ててもらいなが ら,自分はなかなか貢献できなかったという思いが あるものですから,やはり空港の目の前で自然海岸 が残る場所で活動し,多少はものが言いたいという のはあったわけです.僕たちが海や自然とかかわり ながら環境の重要性の意識を持ったのは30 年以上 前なんです.例えば知多半島で言うと,名古屋南部 の臨海地域の埋め立てというのは,空港以上のもの すごい規模で行われたわけで,子供のころ見ていた 知多半島の西海岸の風景が大きく変わっていったこ とは,自分にとって一番ショックでした.今は皆さ んの環境意識が高まったいい時代になったと思いま す.それにここは気象条件が厳しい.その自然環境 と共生しながら発展してきた知多半島の海辺の歴史 があるし,戦後の大規模な開発もある.だから僕は 空港という大きな開発によるマイナス的なことだけ ではなくて,逆に環境を戻してやる,さらにそれ以 上の人に対する代償的な行為が非常に意味があると思うわけです.

● 佐々木
以前,前島(空港の関連開発の埋立地)のランド スケープデザインについて議論したときに,「ミティ ゲーション(開発を行う場合,環境への影響を最小 限に抑えるために代りの処置を行うこと)」という 言葉が出てきて,誤解されると困るのですが,鯉江 さんが,「ミティゲーションというのは人の意識に対して意義がある」というふうにおっしゃったこと が非常に印象的でした.生物や生態系のために生息 環境をつくってあげるというよりも,人のため,そ れは人間が利益や安楽を得るという意味でなく,人 間の意識に対してインパクトを与えるようなミティ ゲーションの方法を考えることが重要なんだという ことですね.つまりたとえばビオトープをつくって いく上で,それにかかわる新しいコミュニティやネッ トワークや制度を同時に獲得しないと,局所的にこ この生態系が守れますとか,自然が再生されました ということだけでは,次へ継承するものが弱いです よね.私は愛知万博にも悩みつつ関わっていますが, あの場合も確かに海上の森という場所が守られると いうことも重要だけれど,そのために博覧会を中止 して,環境保護派が勝った,というような単純な図 式では満足できない.里山保全について同じような 軋轢や問題が日本国中であるわけですから,そこへ 波及するような,まさに意識の改革であったり,情 報の発信であったり,もっと言えば制度や経済のシ ステムをつくるところへつなげていかないと,開催 する価値がないと思うわけです.もちろん,そのた めの授業料が妥当かという点も,非常に悩ましいわ けですが.

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