● 佐々木
例えばどんなひどい目に遭うんですか?
● 鯉江
車を買っても,砂や潮をかぶるわけで,ワイパー
を回せばすりガラスになる.それからマリンビジネ
スの仕事もしているので,お客さんに来てもらわな
いといけないわけですが,雨が降る,すごく温度が高い,強い風が吹くといった気象の状態によって,
お客さんが来るか来ないか,売上が多いか少ないか
も決まるわけです.そういう面で小さい店でも周り
の環境条件に非常に左右されるから,それへの対応
をきちんとしておかないとやっていけない.そのあ
たりのやりとりが今の開発においてはちょっと忘れ
られていて,思わぬマイナスになっているんじゃな
いかなということは,実際ここで生活していると感じますね.
● 佐々木
繰り返しますが,そういう当たり前のことがなぜ
こんなにも軽んじられてきたかを考えると,たとえ
ば,建築デザインにおいても空間の形についてはあ
る程度セオリーみたいなものがあって,つまり,あ
まり広すぎないようにとか,スケールに段階性を与
えた方がよいというようなことが教育もされるわけ
ですが,そのときに風がどう吹いて,温度や日射が
どうで,というのは,1 カ所1 カ所違うためになか
なかうまく体系化して教えにくい.あるいはそうし
た気象的な環境だけを空間から切り離して数学的に
扱ったり,植物だけを生態学的に分析してしまった
りする.こういう教育や専門性の分化が一つは問題
ですよね.
● 鯉江
そうですよね.
● 佐々木
いわゆる造形的なコンセプトとから入る一般的な
ランドスケープデザインとはちがう鯉江さん流のア
プローチは,実際のお仕事の場面でクライアントにスッと納得してもらえますか?
● 鯉江
最初は納得してもらえませんね.ただ,僕のやり
方というのは,現場の現象をリアルに押さえるわけ
です.
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● 鯉江
自然の現象というのはいろんな要素だとか,
その場所場所で違うものですから,机上で話しても
わからない.だから僕の場合はカメラやビデオを使っ
てビジュアルな状態をまず押さえて,そしてそのと
きの気象データを,例えば人工衛星ひまわりからの
画像だとか,広域的な気象情報,あるいはうちの場
合は独自で気象観測もするものですから,そのデー
タを示すわけです.そうすることで,10 数メート
ルの風が吹いたときに木はこうなるし,海はこうなっ
て,こういう影響が出るということを見せて,納得
してもらうわけです.
● 佐々木
鯉江さんがおつくりになる資料は,言葉は悪いで
すが,すごく単純ですよね.でもそれだけにわかり
やすくて説得力がある.また私がおもしろいと思う
のは,鯉江さんはかなり歴史的な資料,つまりその
場所の昔の地図や写真などをお使いになりますよね.
● 鯉江
例えばですけど,今何か開発したり建物を建てよ
うとする時にシミュレーションをしたりしますよね.
相当大きなお金をかけて詳しくやっても,それはあ
くまでもヴァーチャルですよね.それよりも古いも
のや歴史の中には現実があるわけです.つまり昔の
人がトライ・アンド・エラーを積み重ねた過去の実
例を参考にしない手はない.その中からできるだけ
必要なものをピックアップし,要らないものは捨て
ていく.こうしたやり方を自分が自然の中で生きて
いくときもやってきたので,まったく一緒ですね.
● 佐々木
そうですね.私も都市デザインの目から昔の地図
などは大切な資料として使います.でも,戦前かせ
いぜい昭和30 年代ぐらいまでの地図からは,さま
ざまなことが読み取れて面白いのですが,それ以降
はあまり面白くない.つまりどうしてここはこうい
う形で開発されたのか,道がどうしてこう通ったの
かという,関わった人の意志が地図を見ても読み取
れない場合が多いと思うのです.これから何年かか
かって私たちのやったことの結果が地図に残るわけ
ですが,それを見た未来の人に,「何でこんな形に
したのかわからない」といわれないようしたいな,
と思います.
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