JAM SESSION
STAGE 3

● 河津
そうなんです. しかも準工業地域に指定されていますから, 高層のものや収益性の高いものを建てた方が 本業としてはいいのかなと, いろいろ考えました. でも以前からお付き合いがあった, 庭園デザイナーの糟谷さんが街に雑木林をつくる話をされていたのが 潜在的に私の頭の中にあって, 雑木林とお年寄りの施設がなんとか結びつかないかなと思ったのです. そ れで糟谷さんにお電話したら, 「いいんじゃないでしょうか」 という話になってしまいました.

● 佐々木
糟谷さんは落語もなさるだけあってお話もとても楽しいし, 魅力的な方ですものね.

● 河津
ええ. ともかく, 街の中に立派なビルをつくるのではなくて, 雑木林があって, そこでお年寄りがゆっ たり過ごせたら, というイメージだけで出発したような感じです. いざ話を具体的に進めていくと, 名古 屋市の方が大喜びで, ここだったら 80 人か 100 人の特養がいいとか, 750 坪もあるから建ぺい率 70 %でもまだこれだけ広い庭がとれますよ, なんていわれました. でも, そんな巨大な建物を建てることは 私の最初の想いではないなという感じで, 様々な方にアドバイスもいただきながら, 結局デイサービスセ ンターをつくることにしました.
確かに特別養護老人ホームも必要ですが, その前の段階, まだ余力がある時期に日中気楽に集える場所, それも私たちの世代以降は, ビートルズが好きとか, ベンチャーズが好きとか, きっといろんな人が出て くるだろうから, そういう好きなことが何かできる場所, しかも山のふもとではなくて, ちょっと奮発し てタクシーに乗れば行ける街のなかで作りたいと思ったわけです.

● 佐々木
そしてここ中川区の西日置町に, 「雑木林の中のデイサービスセンター」 ができることになったと.

● 河津
そうなんですよ. それで雑木林の方はイメージが決まっていましたが, 建物をどうしようということで, いろいろ見学にいったなかで, 天白区野並のデイサービスセンターに共感して, そこの設計をされた大久 手計画工房さんに出合いました.

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そうしたらそこの事務所に縁の深い名古屋工業大学の高橋先生と糟谷さ んがお知り合いだということが分かって, 点と点がつながった. 「これはすごい, いいことなんじゃない か」 という話になったわけです.
それから設計士さんと, こうあったらいいな, ああなったらいいなというお話を重ねて重ねて. 本当に ああいう時間は貴重でした. とにかく木造で, というのが希望でしたから, 構造や消防の規制の面でいろ いろと難しいことがありましたが, なんとか完成し, 運営も最初につくった特養のスタッフの力を借りて なんとかやっています.
さて, それからですが, 永らく不動産賃貸管理業として住宅にもかかわってきた経験を生かせたらいい な, という視点から, 高齢になって身体が不自由になる前の段階で, 一人暮らしの方が安心して暮らせる 場を提供できないかと考えることになりました. そういう方向が決まったら, あとはすべて自分だったら どうかな, というように考えて, 私だったら同じ集合住宅でも 10 階建てのビルよりは普通の家に近い感 じのところがいいというふうで, 30 人規模のケアハウスを作ろうということになりました.

● 佐々木
お話を伺うと, とんとん拍子の様に聞こえますが, 並大抵でないご苦労があったのでしょう?

● 河津
それはまあ, 土地も施設も金額も大きいですから, 税金対策ではないかと疑われたり, 大変でした.

● 佐々木
でも, ともかく, 3 つ目の施設であるケアハウスがデイサービスセンターの向かいに, これもまたユニークな外観で誕生したわけですね.

● 河津
こちらは雑木林どころか敷地目いっぱいに建っています. しかし, ポコンと真四角なものを建てるのではなくて, こんな空間が欲しい, あんなふうにしたいという色々な思いを設計士さんも共有して下さって, とにかくディスカッションを重ねました. 食堂にしても, 自分は大宴会場みたいなホールで食べたくないという具合で, こういう食堂 (今回の取材場所) が生れたわけです.

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