これを調べるには頭の動きと眼の回旋を含めた動きを解析する必要がある. 本委託研究では, まずこれの撮影を可能にするために, HMD の内部に超小型赤外線 CCD2 台と照明装置を組み込んだ. なお, 本学内でのこのプロジェクトの通称 「"MEGAMAWARU"(めがまわる)」 はこの映像からとった. コンピュータへの取り込みの容易さを考え映像を DV に記録し, フリーの画像解析ソフトを駆使して眼球の回旋角を測定するシステムを作成した. また, 同様に頭の傾斜角の測定も可能とした. この部分は本学学生の渡辺たか一が担当した. これらの装置によりえられた結果は, 酔い症状の解明に役立ったのみならず, 臨床的な異常眼球運動の精密測定や回旋眼球運動の特異な性質の解明という基礎研究にも大きく貢献した.
 このほか, "MEGAMAWARU" プロジェクトには多くの学生が参加した. 映像により目を回すために, 回転映像を用意した. これは川島譜美夫が作成した. アンケートの作成には大野さちこの卒業研究でおこなった HMD と通常のモニタでの TV ゲームによる酔いやすさの比較研究が役に立った. 現在も, 加藤由美が眼のピント合わせ機能と輻輳眼球運動を画像を用いて同時に測定する試みを行っている. このための刺激として本田充はめがねなし 3D ディスプレイに出す映像を作成している. 木部亮は, 何度も何度も被験者になるとともに, 乗物酔と眼の回旋の相関関係に関する実験調査を始めた.
 以下には, 本学における分野別研究の成果のごく一部を報告する. 総合評価システム実験, ガイドラインなどについても詳細な報告書が EIAJ によりすでに発行されている.

2. HMD 使用時の頭部ロール運動による反対回旋眼球運動の解析

 HMD 使用時の motion sickness には二つの原因が考えられる. 一つは映像の動きが引き起こす自己動揺感覚, もう一つは頭が動いても映像が変化しないために生じる前庭刺激と視覚刺激の矛盾である. 前庭に加えられた刺激により眼球運動が生じる (VOR). 頭部水平運動に対しては眼球は反対方向に運動し, 空間的に視線方向が変わらないように保つ. この際, 前庭刺激も視覚刺激も矛盾しない. 固視目標があれば, ほぼ完全に視線は空間に対して保たれる.



視覚刺激が生じない暗所でもゲインは減じるが VOR は生じる. しかし, たとえば, 回転椅子の上で椅子に固定された視覚対象を固視している場合 VOR は生じないほうが都合が良く眼球運動は生じない. 水平方向の頭部運動では VOR の視覚抑制としてよく知られている. これは, VOR が生じたとしても, 視野の流れにより視運動性眼振 (OKN) が生じ, 両者が打ち消しあっていると考えることもできる. HMD の使用時には映像が静止状態であれば, 視覚抑制が働く状況にある. 一方, 頭部のロール運動に対しては眼球が回旋する (反対回旋). このとき反対回旋 (VOR に相当) の速度ゲインは 1 よりも小さい. また, 回転する画像を見ているときにも回旋眼球運動は誘導される (OKN に相当). しかし, そのゲインは相当小さい. HMD 使用時の反対回旋眼球運動はどのようになるであろうか?
 HMD 使用時の眼球運動, 特に回旋眼球運動を測定する装置がこの分野の研究で必要とされている. 今回, まずこのような必要性を満たす装置の開発を行った. 次に本装置を利用して頭部ロール運動を起こしたときの反対回旋眼球運動を測定した. このとき, 頭の動きとともに回転する映像と静止している映像を用意し比較した. また, 頭部を静止させ映像のみを回転する刺激も作成した. 回旋眼球運動の計測は, 画像解析を応用した方法による. 撮影装置と解析システムの詳細は昨年度の EIAJ 報告書を参照していただきたい.
 実験は頭部ロール運動に対する反対回旋を誘発しておこなった. イスに座った被験者はメトロノームによって与えられるリズムに従い上半身を左右に揺らすことにより前庭刺激を与える. 画像の生成は, 頭に取り付けた小型カメラの映像を HMD に接続した. HMD には前の景色が透けて見える see through mode がある. この視覚刺激条件は see through compatible mode と呼ぶ. 映像をフリーズさせると HMD 内の映像は頭と一緒に動くことになる. 通常 HMD を使用しているのと同様な感覚が得られる. これを HMD mode と呼ぶ. 頭を動かさなくとも映像が動くことによって, 眼球運動は誘発される. この映像は see through mode の実験時の映像をビデオに録画しておき, それを再生することによって得る. これを video mode と呼ぶ.

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