"MEGAMAWARU" プロジェクト研究成果報告

− 3次元映像の生体影響総合評価システムの開発 −

情報社会科学部教授 鵜飼 一彦

1. プロジェクトの全体像

 平成 8〜10 年度の 3 年間にわたった, 通産省指導, 財団法人機械システム振興協会 (以下シス協) 委託, 社団法人日本電子機械工業会 (以下 EIAJ) 受託 「3 次元映像の生体影響総合評価システムの開発に関するフィージビリティスタディ」 が 3 ヶ月の延長期間を終え, 99 年 6 月終了した. 本プロジェクトは EIAJ 内に置かれた委員会を中心に活動を行い, 調査研究, 国外視察, 生体影響評価のための機器開発, 国際シンポジウム, ワークショップ, ガイドライン作成等の事業を行った. 本学からは, 筆者がすべてのレベルの委員会に参加し, また, 視覚系ワーキンググループの中心になって活動を行った. その一環として, 本学システム研が 2 年間 3 件にわたって EIAJ から研究の再委託を受けた.
 活動目的は, 近年発展しつつある映像技術, 特に 3D 映像の実用化に当たって, 未知の生体影響も可能性があるため, あらかじめあらゆる可能性を調査, 実験により確かめ, 生体影響評価システムを確立し, 機器の製造者, コンテンツの製作者, 機器の利用者に役立つガイドラインを作成することであった. ちょうど, 期間中にポケモンショックが起き, このような映像のもつ社会的影響を事前に研究しておこうという本プロジェクトの姿勢が高く評価された.
 本学が委託を受けたのは, このうち, 9 年度の 「3次元映像の生体影響 (自立神経系/視覚系) に関する評価方法について」, 10 年度の 「視覚系総合生体影響評価システム機器の開発」 および 「3次元映像の生体影響 (視覚系) に関するガイドライン策定の基礎となる生体影響評価方法について」 であり, 最後のものは大阪大学医学部, 神戸大学医学部, 金沢工業大学の視覚系研究者への再配分を含む.10 年度の生体影響評価システムでは, 筆者により, 3D 映像の再生, 3D head mounted display (HMD) への提示, プロジェクションシステムの構築, 両眼虹彩赤外線撮影記録システム, 頭部動揺撮影システム, 虹彩像からのリアルタイム輻輳眼球運動・瞳孔面積解析システム, オフライン眼球回旋・頭部傾斜解析システム, アンケート調査用紙が作成された.



東北大学加齢医学研究所の循環器グループを中心として開発された自律神経系多機能測定装置と組み合わされ数度の実験が行われた. また, 視覚系, 自律神経系にわけて実験結果の解析が行われ, 得られた結果は新潟大学医学部生理学教室にて総合解析された. これに先立ち, 9 年度には視覚系測定装置の試作機が開発され, 本学にて公開実験が行われ, 企業などからの参加があった (本ニュースレター 1998 年第 3 号にて既報).
 虹彩は自律神経の神経支配を受けている. そのため, 驚いたり, 興奮したりすると瞳孔は開き, 眠くなったり疲労したりすると瞳孔は縮小する. このため, 瞳孔の大きさは自律神経系のバロメーターとして使用可能である. 近くを見たときには両眼は内による (輻輳眼球運動). 飛び出して見える両眼視差 3D 映像を見たときにも輻輳は生じるが, 自然の状態とは異なり眼のピント合わせはスクリーンの面に固定しておかないとぼけてしまう. ピント合わせ情報と両眼のずれ情報が, 現在の 3D 映像技術ではまだ矛盾してしまう. これが 3D 映像視聴の際の目の疲れにつながると考えられている.
 また, 眼は左右上下に動くとともに, 視線軸を中心に回転する. ちょうど, 目が回るように見える. この動きは映像が回転したときにも小さく現れるが, 頭を傾斜させたときに大きく現れる. 頭が傾斜したときに, 網膜に写る像が回転してしまうのを防ぐための機能と思われるが, 人間では不完全に残るのみで, たとえば水平に頭を回転させたときの反対方向への眼の反射運動がはっきりとしているのに比べて, 性質が異なる. HMD もソニーやオリンパスから家庭用が発売されているが, この映像は頭が動いても空間に固定されず頭部に固定されている. したがって, 水平にしろ傾斜にしろ通常の映像と異なり頭の動きと反対に眼が動いてはかえって困ることになる. 反射的な眼の反対方向への動きは耳にある三半規管に発する姿勢情報から得られているが, HMD では耳からの姿勢情報と視覚情報が矛盾することになる. そのような状況では乗物酔ににた症状 (動揺病: motion sickness) が現れることがわかっている.



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