4. 権力者との接点

 調査対象となっている経営者たちには社会ネットワークを通じて都市との接点をもつことに次いで権力者との接点をもつ人も多く見られる. 権力者との接点とは具体的に言えば, 主に二つの現象を指す. 一つは経営者本人あるいは家族の人が何らかの形で権力構造に直接に組み込まれることである. 例えば, J.C氏は市の農業銀行の頭取であったが, 退職したのち農業銀行から 160 万の貸付をうけて私的企業をはじめた. またS.C氏は現役の市の公安局長として勤務しているが, 18 歳の息子を社長にして私的企業を設立した. もう一つの現象としては, 経営者本人も家族も権力構造に直接に組み込まれることなく, 創業段階では権力者との接点がなかったにもかかわらず, 企業の発展に伴って徐々に権力者と接点を結んでくることである. たとえば, 政府機関の有力幹部に会社の顧問をさせたり, 定年幹部を雇用したりする形で権力者と接点を結ぶなど, 日本の 「天下り」 現象と似ている. 企業の規模の拡大に伴いこの現象が増えてくることが見られる. R社の社長は都市で蜂蜜を売って得た資金で企業を設立し, 現在労働者を 2,000 人以上雇用している企業に発展させてきた. 社長本人と彼の家族には権力者とのつながりは全然ないが, 3年前から鎮の元共産党書記長を会社の副総経理 (副社長) として雇い, 会社の従業員管理と渉外を担当させている. また, Z社も社長の経歴がR社の社長と非常に似ている. 貧しい農家に生まれ, 闇工場での電気部品の加工と販売の経歴をもち, 改革の波を乗って, 合法的に企業を設立し, 現在 1,000 人以上を雇用する温州市の有力企業までに成長させてきた. その企業では退職した市の元の局長以上の幹部が 10 人雇用されている.


5. 私的経営者の類型

 改革以降人の移動や情報の流れが以前より活発になったが, 都市と農村との制度的な隔離状態がまだ完全に解消されていないため, 都市との接点を持つことは農村の人にとっては情報と市場とのアクセスを意味し, 私的経営者になるための基本的な条件と言えるであろう. また権力者との接点を持つことは現在中国における多元的経済制度と一次元的な政治制度との共存の体制の下で, 法制度が不備であり, 平等な市場競争のメカニズムがまだ生まれていないため, その接点を通じて政府部門から企業の設立と発展に多くの便宜を計ってもらうことに違いないのであろう.
 都市との接点と権力者との接点を二つの変数にし, 私営企業の創業時期と現在の実態を考察すれば, 農民興業型, 抑圧開放型, ハイジャック型に分類ができる.

1)農民興業型:最初都市と権力と何の接点も持たない普通の農民であったが, 「亦工亦農」 や軍隊の入隊や闇商売などを通じて, 都市と接点を結んで, 資金と情報を蓄積してから企業を設立した人を指す. 彼等は企業が一定の規模まで発展してから, 権力との接点を結んで, さらなる都市との接点の数の増加に伴い, より大きな企業発展を達成した. また, 農民興業型の経営者には闇商売を通じて, 市場の動きを直接に感じ, それに対する反応が敏感で, 経営者としての資質を身につけた人が多く見られた. しかし権力者との接点の有無が, 彼等が企業をより大きく発展させるための重要な変数となっていることが調査から分かった.

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