共生型社会を支える環境情報システム−市民参加と政策支援をめざして

情報社会科学部助教授 千頭 聡

1. 持続可能性とは

1992 年の地球サミットをひとつの契機として, 開発や資源利用における持続可能性が脚光を浴びている. 持続可能性を担保していくためには, 現在の世代のことだけを考えるのではなく, 次の世代のことも考えようという, Think trans-generations, Act now の考え方が基本となる. しかし, 持続可能性という言葉は, 概念としては極めて高尚であるが, 実際の地域管理のレベルで具体化を図ろうとした時, どのような状況が望ましいのか, どうすれば担保できるのか, どうやって検証するのか, だれが主体となるのかなど, 明らかにしなければならない課題は山積している.
持続可能性を議論する時, ややもすれば, 十分条件のみに議論の目が向きがちであるが, 地域特性も社会特性も歴史的・文化的背景も異なる空間において, 持続可能性を保証しうる十分条件を求めることは極めて困難である. むしろ, 持続可能な状況を支えうる必要条件を探し出し, その積み重ねを通じて, より環境負荷の少ない環境共生型の社会に一歩ずつ近づいていくことが必要と考えられる.
持続可能な環境共生型社会を支える要件にはどのようなものがあげられるだろうか. たとえば, ある開発を想定した場合のいくつかの要件を列記してみる.
1) 自然環境, 社会環境, 歴史文化的環境に関わる徹底した事前調査
2) 構想段階からの計画アセスメントや戦略的アセスメント
3) 計画の各段階を通じた情報の公開と共有
4) 構想段階からの地域住民の主体的な参画
5) プロセス重視の計画策定
6) 段階的な試行を含む柔軟な事業推進
7) 社会文化的側面への影響を含めた, 徹底したモニタリング
8) 地域住民・開発主体・行政・専門家による事後評価
9) 評価結果に基づくプロジェクトの柔軟な修正


2. 環境に関わるデータの現状と問題点

持続可能な開発に関わる上記のいずれの要件にも関わってくるのが, 環境情報である. 現状の把握, 代替案の検討, 試行とモニタリング, 評価など, いずれの段階においても, 環境に関するデータが適切に収集・蓄積され, わかりやすい形で提供されることが重要である. この環境情報を, 1) データの収集と蓄積,2) データから情報への加工,3) わかりやすい形での提示, という3段階に分けて考えてみる. ここでは, データと情報とは区別して考えることとする. つまり, 一次的なものとしてのデータに対して, それを適切に蓄積し, ニーズに応じて出力したものが情報である. 勿論, データを情報に加工する過程では, どのような分析がしたいのかという意図が関与してくることもある.
一般論としての情報システムに関する議論は別の識者にゆずるとして, 市民あるいは種々の計画立案に携わるプランナーの立場から現状での環境情報システムの問題点について, いくつかの問題点を指摘する.

(1) 行政の環境データシステム
環境に関わるデータをもっとも多く所有しているのは行政であるが, 行政の所有しているデータは, 公開性, 利用のしやすさという点では従来非常に遅れていた. たとえば, 水質・大気質に関するデータは, 一定規模以上の市では, 公害監視システムとして整備が進み, 時々刻々膨大なデータが収集されている. しかし, これらのデータを一般市民はおろか, 行政内の他部局の職員が活用することすらきわめて困難である. これは, 公害監視システムが, 環境基準との適合性のチェックという限定された目的のために整備されたものであり, その他の利用を想定していないことによる. コンピュータ利用の公害監視システムを持たない市町村においても, 月に1回から年に 4 回程度は, 河川水質や騒音, 大気汚染に関する調査を行っている. これらの結果は公害白書などの形で印刷物になっているものの, コンピュータへの入力が行われないため, データ加工や解析に利用できる形とはなっていない. (この現状の背景には, 特に地方公共団体においてコンピュータ利用についての諸規定が整備されていないという別の問題が横たわっているが, この点については別の機会に整理したい.)



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