断層さまざま

情報社会科学部教授 水谷伸治郎

敦賀湾−伊勢湾構造線:
―敦賀湾は日本海に開き, 伊勢湾は太平洋につづく. 両者の間隔は本州を横断する距離としては最も短い. 敦賀湾と伊勢湾を結び, ここに運河を造ろうという夢が終戦直後に語られたことがあった. 空路と陸路は飛行機と自動車, その頃はすべて進駐軍のものであった. せめて水路をと考えた人達の気持ちはわかる. この本州を横切る最短距離の地域には NNW-SSE に走る幾つかの断層が認められていて, 古くから“敦賀湾−伊勢湾構造線”と呼ばれてきた. 幅広い破砕帯を伴う顕著な断層, 延長距離が長い大きな断層, あるいは, 山地やその内部の地質構造を切ってその周辺と明瞭な境界をつくっている断層, これらの断層やその集まり, それが構造線である.

甲楽城 (カブラギ) 断層:
―1989 年7月 16 日午後, 休暇を利用して福井に来ていた滋賀県の小さな観光グループの一行は帰路を急いでいた. 日本海の荒波と切り立った岩盤, あたりは風光明媚・展望絶佳の越前海岸である. 観光道路には落石よけのロック・シェッド (トンネル状の遮蔽構造) が作られていた. かれらのマイクロバスが玉川付近を通過しようとしたその瞬間, 巨大な岩塊が上の崖から崩落し, ロック・シェッドの天井を破ってバスを直撃した. 中の 15 人は即死であった. 以後, この崩落事故は何度も話題になっている. この越前海岸の NNW-SSE に真っ直ぐ続く急傾斜地形とその付近の海底の深度分布から, この地域の海岸線に平行して断層が存在すると考えられている. いわゆる甲楽城断層である. これが敦賀湾−伊勢湾構造線の最北の構成要素である.


根尾谷断層系:
―敦賀湾−伊勢湾構造線にほぼ平行し, 約 40kmほど東に離れた地帯に根尾谷断層系がある. そこで, 1891 年 10 月 28 日, マグニチュード 8.0 の地震が起こった. 濃尾地震である. 死者 7,200 名以上, 内陸性の地震としては我が国最大の地震であった. この時, みごとな断層ができた. 地面は水平に2m, 上下に6mずれた. いわゆる水鳥 (ミドリ) の断層崖である. この規模の断層が地震で形成されるのはきわめて珍しい. 濃尾地震 100 周年を記念して, 永久にこれを保存する計画が建てられた. 今では, 地震断層の露頭がそのまま残され, 根尾谷地震断層観察館として, 直接それを観察できるようになっている. 根尾谷断層系と濃尾地震は, 敦賀湾−伊勢湾構造線を含んだこの地域のどこかで, また大きな内陸性の地震が起こる可能性があることを暗示している.
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