(2)心拍数について

トレーニング実施者の運動中の安全を確保するために, 生体信号をリアルタイムでモニターする場合, 心拍数・血圧・酸素摂取量等が用いられるが, 運動形態によって使用できる指標が異なってくる. トレッドミル上での歩行・走行, あるいは自転車エルゴメーター駆動の場合, 一定の動作の繰り返しであり, また運動実施者の位置が固定できるため, 比較的多くの指標を用いやすい. 本研究開発の場合, 運動形態が筋力トレーニングであるため, 運動中に血圧をモニターすることは不可能である. また, 多様な動作を行うことから, マスク, マウスピースを装着して酸素摂取量をモニターすることも, 現段階では現実的ではない. そこで, 比較的手軽に計測できる心拍数を用いた. 心拍数は, 運動実施者の運動を制限することなく計測できるので, "明るく楽しいリハビリテーション" という内容にはふさわしいものと思われる.
心拍数を計測する上で注意すべきことは, 計測された心拍数の正確さである. 図 3 は, offset レベルを調節することにより, 瞬時心拍数がより正確に計測されることを示している. 図 3 の上段の左側で, T と記されているレベルがデフォルトの offset である. このレベルを超した信号の数の瞬時値が右側に表されている. 左側のグラフで, 上に大きく振れているのが R 波であり, R 波の数だけをカウントしたいのであるが, この場合, R 波以外の波形も offset レベルを超えているものがあり, 余計にカウントされている. 右側のグラフで, 瞬時値が大きく変動しているのはこのためである. このことは, 下段の左側のグラフのように offset レベルをあげることで解決できる. この場合, T の位置が上段のグラフよりも上に動いているが, このように調整すれば, R 波の数だけをカウントすることができる. 下段の右側のグラフがほぼ安定した瞬時値を表しているのはこのためである.


図3 心拍数計測時の感度の調整1
  (上段: 調整前、下段: 調整後)

以上は安静時の場合であるが, 運動中はさらに基線の動揺が生じる. これは, 呼吸運動による胸郭の変化, 体幹の捻転等からくる極間抵抗の変化, あるいは, コードの揺れ等による電極の揺れが原因のノイズ, 他による. 図 4 は体幹をゆっくりと捻転させた場合の基線の動揺を示している. 上下段とも左側のグラフで, 心拍数波形の基線が波打つように動揺しているのはこのためである. この場合も, offset レベルを調整することで, 心拍数計測の正確性を増すことができる. 右側の瞬時心拍数のグラフで, 下段の方が安定しているのはこのためである. その他, 時定数 0.03 で low pass フィルター (低周波数成分をカットするフィルター) をかけた.

(3)システム全般について

 本共同開発は, 「マルチメディアを利用した明るく楽しい (ゲーム感覚の) リハビリテーションシステムの研究・開発」 を目的としたものであり, これは, 「病気・事故・生まれながらの障害を持つ人が, リハビリテーションを楽しく行うことにより知らず知らずのうちに効果をもたらすことを目指す」 システムを開発することであった. ここでは, 基本的にはリハビリテーション実施者を指導・観察する人間 (理学療法士, 作業療法士, 家族, 知人, 他) が介添えしていることを前提としている. リハビリテーション実施者に 1 人で運動させることができないのは当然であるので, オペレーターが操作する部分を残した. 運動中に電極がはずれることや, 基線の動揺による計測漏れも十分に予想されることから, 計測された心拍数の正確性を確認する必要がある.
また, リハビリテーション医療関係者から, 本共同開発の目指してきたリハビリテーションシステムを, "実際のリハビリテーションの現場で使用することは不可能である"という意見を頂いたことも事実である. 本共同開発の考え方に対するご批判と受け止め, 今後の検討課題としたい.


図4 心拍数計測時の感度の調整2
  (上段: 調整前、下段: 調整後)
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