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♯10 福祉教育・ボランティア学習

多様な福祉の課題に出会う現代。
それらを避けることなく、
立ち止まって考え続けよう。

社会福祉学部 社会福祉学科

小林洋司 准教授

小林洋司准教授の研究分野は、社会教育、生涯学習、福祉教育、障害学 。大学での研究、指導活動の傍ら、日本福祉教育・ボランティア学習学会の理事としても活躍しています。先生に、「福祉教育・ボランティア学習」の意義について話を聞きました。

社会課題

学びを通じて、不寛容な社会を脱する必要性。

 グローバル化の進展に伴い、日本においても文化や考え方の異なる人々が互いの価値観を尊重しあう「多文化共生」の考え方が重要になってきました。しかし、多様な文化や背景をもつ人が同じ地域社会で生きていくのは、それほど簡単なことではありません。たとえば、国籍や民族の違う住人が地域に増えることは、同質性の高い社会に異質な人が増えていくことになります。そうなると、それまで地域に培われてきた「あたりまえ」や「暗黙の了解」が成立しにくく、相互に不安、葛藤、ストレスを感じるようになります。それが進めば、地域コミュニティが衰退したり、地域社会の不寛容が広がったり、ややもすると、差別や排除なども起きかねません。
 福祉教育は「誰もがしあわせになるための教育」であり、お互いの理解を促進する役目があります。また、ボランティア学習は単にボランティア活動をするという意味ではなく、自発的に多様な人々と交わるなかで気づきや発見を得て、他者理解を深めるという意義があります。不寛容な社会を脱し、多文化共生社会をめざしていくためにも、福祉教育・ボランティ学習の役割が問われています。

INTERVIEW

福祉教育・ボランティア学習とは何か。

まず初めに、先生が福祉教育・ボランティア学習に関わるようになった経緯から教えてください。

小林

私がライフワークとして取り組んでいるのが、ハンセン病の問題(※)です。21歳のとき、香川県の国立療養所へ行き、ハンセン病の歴史や状況について話を聞いて、「こんな壮絶な生き方をしてきた人がいるのか」と衝撃を受けました。そこで、そうした方々の生活支援ボランティアに参加し、さらに事実の伝承や語り継ぎに関わりはじめたのですが、私一人では到底できない大きな課題です。大学院に進学し、この問題を整理したいと思っていたところ、恩師から福祉教育・ボランティア学習学会のお話を伺い、「一緒に学んでみないか」と誘っていただきました。それが、この領域に足を踏み入れたきっかけです。どうやって人に伝えていくか、すなわち、どのように人の認識にことばを届けていくか、ということが大切ですし、ハンセン病の問題も伝える方法を探求したいと考えました。

福祉教育・ボランティア学習とは、どういうものか、教えていただけますか。

小林

研究者によって見解は違うと思いますが、私はそれぞれの言葉を単独で扱うのではなく、福祉教育とボランティア学習の関係を相乗的に捉えるべきだと考えています。福祉教育は基本的に地域住民や子どもたちに働きかけて、優しさや支え合いみたいな感受性を育むものだと思います。一方、ボランティア学習は学習者が主体性に基づいて制度化されていないところを中心に、自分たちができる活動を広げていって、困っている人を生まない社会をつくる、という一つの手法です。福祉教育の普遍性に、ボランティア学習の主体性や自発性のエッセンスを入れていく。あるいは、福祉教育をボランティア学習の中で応用していくのが、福祉教育・ボランティア学習だと思います。

福祉教育とボランティア学習を、一つの領域と捉えるのが大事なんですね。

小林

そうです。たとえば、福祉教育では、車椅子体験やアイマスク体験を通じて障害について理解をしていこうというものが一つのコンテンツとして確立されています。しかし、それが住民に対して届くのか、年齢の違う人にどう届くのか、という問いが重要で、そのときに行われる試行錯誤が、福祉教育・ボランティア学習の中に内包されていると思うんです。福祉教育とボランティア学習は、「・」で結ばれていますが、これはある意味、拮抗関係を示していると私は考えています。福祉教育とボランティア学習がときに相容れず、ときに補いあう関係にあるという原理に基づいて、この言葉は使われていると思います。

※ハンセン病とは、らい菌が主に神経を犯す慢性の感染症。現代では完治する病気ですが、その外見と感染に対する恐れから、患者たちは何世紀にもわたり差別と偏見を受けてきました。

コンフリクト(葛藤)を共有し、異質性を理解する。

福祉教育・ボランティア学習を地域で実践していくには、どういう意識が必要でしょうか。

小林

前提として、地域社会には、同質性と異質性が存在しています。今日的な社会は「同じ」からスタートしようとするので、「違い」が後から出てきます。そうすると「許容できない」ということにつながってしまいます。最初に、どのように「違いがある場」をつくるかが大切。民族の問題も、宗教の問題も、障害の問題もそうですね。違いを理解し、相手がなぜ違う行動をするのか、それを理解することから始まると思います。そのように異質性を理解することは「骨の折れること」だと認識されますが、それを社会学や社会心理学では、「コンフリクト(葛藤)という言葉で概念化しています。

コンフリクトは、福祉教育・ボランティア学習においてどのように位置づけられているものですか。

小林

福祉教育・ボランティア学習において、複数の集団が関わり合うことは、有意義な学びの場になります。しかし、異なる文化をもつ人が相互理解をめざすとき、そこには多かれ少なかれコンフリクトが生まれます。そのコンフリクトをしっかりと認識し、受け止めることなくして、多文化共生は実現しません。私は福祉教育・ボランティア学習では、コンフリクトを契機に、社会との緊張関係について学びを深めていく手がかりになると考えていますし、もう少し言うと、コンフリクトを手がかりに、福祉や教育・学習を捉え直していきたいとも考えています。

たとえば、「人権」を行動規範に位置づけるには。

コンフリクトに接したとき、私たちはどのように行動すべきでしょうか。

小林

異質な考えを持つ人と出会ったとき、「なぜそう考えるのか」を立ち止まり、思考することが重要です。相手の立場に立って想像するにとどまらず、自分のことを棚にあげず、ものごとと自己の間の距離感を常に意識し、その間を往来すること。もっと相手を理解しようとして、立ち止まってその場に居続けることが大切ですし、結果や答えを急がない態度が必要です。その意味では私は「急がば回れ」超推進派なんです。世の中的にあらゆるものに余裕がなくなって、時間やコストに対するパフォーマンスが重視されますが、それよりも重要なのは、その「場」に立ち止まって考え続けることではないでしょうか。

福祉教育の根幹にある人権問題については、どのようにお考えですか。

小林

人権は日本国憲法にも記されたベースにあるものです。しかし、多くの人が理解はしているものの、行動規範の中に位置づけることができていないと考えています。以前、高校に「人権講話」に行ったことがあります。そのとき、「人権を守れ」という言葉は使わずに、「隣のクラスメートがどういう経験をして、どういう考えをもっているか知ってください」と話しました。「隣に座っている人の経験を尊重し、経験から出てくる思考を尊重してください。その中でわかり合えないものがあれば、話し合ってください」と。このように、相手の思考やその背景まで考える姿勢が人権意識だと考えています。

ハンセン病は、我々の生き方を問う、永遠の課題。

最後に、先生のライフワークであるハンセン病の問題についてお聞かせいただけますか。

小林

感染症の問題はややもすると、差別を「肯定させてしまう」領域だと思うんです。幸せや健康を大事に考える人にとっては、自分の生活に入ってきてほしくない問題であり、福祉教育・ボランティア学習に関わりの深いテーマでもあります。同時に、ハンセン病は負の遺産ではなく、今日の我々の生き方や価値観を問う永遠の課題でもあります。聖書では、ハンセン病は「leper」や「lepra」という言葉で表現されます。その扱われ方は「穢れの象徴」なんですけれども、この問題が人間の本質を問うていることを物語っていると思うのです。

過去の病気ではなく、今日的な課題であるということですね。

小林

そうです。本学の創始者、鈴木修学先生はハンセン病の方々の生活のところに身を投じる経験をされました。奥さまも連れていかれましたから、自分と自分の大事な人とハンセン病の人たちと暮らしを共にする、というのは相当なコンフリクトの状態だったと思うんです。鈴木先生は日蓮宗に帰依していましたが、そこで一つ思うことは、「信仰がないと支援はできなかったのだろうか」という問いかけです。歴史的にも見ると、ハンセン病の支援をしてきたのは仏教徒であり、キリスト教徒です。しかし、福祉教育・ボランティア学習という、ある種、理性的、自発的な思考や方法でもって、鈴木修学先生のような行動ができるかどうか。できるような未来をどうしたら創れるのかという検証をしていきたいと考えています。

(株)メディアオーパスプラスのチャレンジ

(株)メディアオーパスプラスは、2017年に設立された学びのテクノロジー企業です。講義や講演などの映像化、Webコンテンツの制作・配信とともに、受講者のデータ分析やコンサルティングを行っています。

学びをアップデートして、
社会課題の解決に貢献していく。

株式会社 メディアオーパスプラス

兵庫県神戸市中央区浜辺通5丁目1−14 神戸商工貿易センタービル18F

https://www.mediaopusplus.com/

学校や企業、医療・福祉など、幅広い領域へ学びを届ける。

  (株)メディアオーパスプラスの前身は、関西の進学塾である浜学園の映像制作配信事業部でした。そこで培った塾での映像制作、学習管理システムのノウハウとテクノロジーをベースに、さらにサイエンスを取り入れ、学びの革新を推進。現在は、全国の教育機関から産業界、医療・福祉分野まで幅広い領域で、質の高い学びを届け、受講者のデータ分析にも取り組んでいます。

福祉教育の分野では、セミナー・講演会の映像やWebコンテンツ、ケアマネジャーなど専門職の研修映像の制作と配信を数多く手がけています。そのほか、全国各地の自治体が取り組む福祉活動の実践事例や、ヤングケアラーなど社会課題に対する対策事例の映像制作・配信にも力を注ぎ、社会福祉に携わる人々の気づきや成長を支援しています。なお、サービスの提供にあたっては、品質マネジメントシステムの国際規格であるISO9001、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格であるISO27001を取得。安全で品質の高いサービスを提供し、多くの顧客の信頼を得ています。

福祉教育に関わる映像制作において、同社が大切にしているのは、いかに学習効果を高めるか。たとえば、実践事例の映像では、単に事例を紹介するだけでなく、その事例のポイントを大学の先生が解説するコーナーを挿入。専門家の的確なアドバイスを加えることで、学ぶ人がより深く理解し、実践につなげられるよう工夫しています。同時に、福祉の世界は、正解が一つではありません。そのことを学ぶ人が受け止め、一人ひとりがより良い解決策を考えられるようなストーリーづくりを心がけています。また、福祉・医療分野の最新情報をキャッチするために、日本福祉教育・ボランティア学習学会にも積極的に参加。今、どんな教育が求められているかを常に分析し、次の映像制作などに活かすよう努めています。

 今後の目標は、学びをさらにアップデートし、社会課題の解決に貢献していくこと。今、日本は急速に進む人口減少や高齢化を背景に、多くの社会課題に直面しています。学びは、これらの社会課題に向き合う武器となるものです。たとえば、外国の人との共生社会を実現するための学び、高齢になっても健康で過ごすための学びなど、多種多様な学びを届けることにより、人々がより豊かな人生を送れるようにサポートしていきたいと考えています。

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