通学電車が遅延。車内にアナウンスが流れる。「◯◯駅で事故のため当電車は次の駅で停車します。運転再開時間は未定です。」 車内がざわつき、誰かが舌打ちをする。友達同士で乗っている学生たちは、すぐにスマホで情報を収集している。どこかから聞こえてくる声「人身事故やって。」「○○駅でだれか飛び込んだらしいで。」「もう、こんな時にやめてくれよな。」「マジむかつく。」「授業に遅れられるラッキー。」「ストレス社会やからなぁ。」 私はとてもいやな気分になる。舌打ちする人、不幸なことなのに、楽しんでいるようなセリフを言う人、他人の気持ちを考えられない人達がこぼす音や言葉に私の心が黒く塗りつぶされていくような気分になる。 なぜ彼らは自分の事しか考えられないのだろう。本気で言っているわけではないかもしれないが、決して軽々しく話す事ではない。もちろん私も自分の事を一番に考えている。でも、人の不幸を喜びたくはない。自分も大切、周りの人も大切、みんなが幸せになれたらいい。 電車に飛び込む気持ちとは、どういった気持だったのだろう。いや、電車に飛び込まなければならなかった気持ちとは、どれほどの苦しみだったのだろう。その人にも家族はいたのではないだろうか。友達もいたのではないだろうか。悲しむ人もいたのではないだろうか。何か他の方法はなかったのだろうか。どこかに逃げ道はなかったのだろうか。 私の周りに同じような状況に追い込まれている人がいたら、私に何ができるだろう。うわべの言葉だけでは誰も救えないことはわかっている。本気で一緒に悩み、その人の心に寄り添い、手を握ってあげることぐらいしかできないのではないか。 多くの人が生きるこの世界で、自分の力でできることの小ささを感じる。せめて、人の心の痛みがわかる人間になりたいと思う。
素直で分かりやすい文章ですね。飛び込み事故によって、電車が突然止まってしまうというよくある出来事を切り口に、作者がどう考えているかが伝わってきます。 電車が停車したことに不満を抱いたり、事故の原因となった人を非難するのではなく、飛び込まなければいけなくなった人を思いやり、私たちも何かしなければいけないのではないかと考える作者の人間性がにじみ出ています。 まとめも、作者の主張がしっかり表明されており、読後感の良い作品になりました。