「世界に色がないからねえ。」 そう微笑みかけてくる女性の言葉に胸を突かれた。色のない世界。あなたは想像したことがあるだろうか。 私の所属するボランティアクラブでは、年に数回、知的障がい者団体の方たちと交流会を開いている。その中の一大イベントである夏合宿は、部員一人につき団体の方一人の介助をするため、皆責任感に身が引き締まる二日間だ。私は全盲の女性の担当となった。「全盲」という響きに、どのように接すべきか戸惑いを覚える私に優しく話しかけてくれる彼女は、ほとんどの身支度を一人でこなした。その動作の滑らかさに私は思わず「手や耳の感覚で出来るなんてすごいですね。」と声をかけた。すると、彼女は少し考えてから微笑んでこう教えてくれた。「感覚や慣れで出来るようになることは色々あります。だけど、美しい空はどうしても見れないの。」 その言葉を聞いてから、私は彼女の心に風景や状況が映し出されるように出来るだけ詳細に描写するよう心掛けた。また、私たちが普段多用する「そこ」や「あっち」などの言葉は、距離感をはかることが困難な全盲の方にとって不安を招くため、具体的な歩数に置き換える必要があると学んだ。私は、彼女に慣れない環境での合宿を楽しんでほしいと思い、合宿中は彼女のそばを離れず、常に手をつないで誘導した。別れ際に「二日間、私の目になってくれてありがとう」と伝えてくれた彼女の言葉に、心と心がつながった気がして胸が一杯になった。 「世界に色がないからねえ。」 彼女の言葉は決して目が見えないハンデを悲観しているのではない。「そばにいる人の言葉一つで全盲の人の世界はどんな色にも変えられる」という私たちへのメッセージなのだ。私たちの世界は色褪せていないか。自分本位になっていないか。私は自分にできることから一筆一筆色を付けていきたいと思う。
自分の感情と説明の部分をうまく織り込みながら、活き活きした文章でまとめたバランスの取れた作品です。 「色がない世界」を私たちはなかなか想像できませんし、想像しようと思っても、し切れないのが普通です。しかし、作者は夏合宿の経験を通して自分なりに想像しながら、相手の心に色をつけようと努力しています。その様子や学んだことを的確に表現して、努力していこうという作者の決意が読者にストレートに伝わってくるため、読みやすい作品になっています。