36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2018年度 日本福祉大学
第16回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツとわたし
第3分野 日常のなかでつながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
審査員特別賞 ロリーポップマンがくれたもの
Roseville College(シドニー) 2年 田辺 茉奈

 「おはよう!」
 ロリーポップマンは私の制服に気づくとすぐににっこり笑い、話しかけてくれた。顔がしわくちゃになり、目が細くなる彼の笑顔は本当に可愛らしくて、「今日も頑張ろう。」と思わせてくれる。彼はきっと誰にとってもそんな存在だっただろう。
 ロリーポップマンとは、私の学校で二十年前から交通整理をしているおじいさんのことだ。彼がいつも手に持っている「STOP」と書かれた丸い看板がペロペロキャンディーに見えることから、生徒たちからロリーポップマンの愛称で親しまれていた。四十度を超える暑い日も、底冷えする雨の日も、交差点に立ち、登校する生徒たちに元気よく笑顔で話しかける姿はとても微笑ましかった。
 そんな彼が長く勤めていた交通整理のボランティアを引退すると決断したのは、本当に突然のことだった。九十という歳を迎え、身体的な限界を感じていたそうだ。
 彼が引退する日、先生を含めた全校生徒は彼に内緒でサプライズを計画していた。それは歴代の校長先生が退職された時にしか行わなかった盛大なもので、生徒全員でアーチを作り、ロリーポップマンを送り出すというものだった。彼がアーチをくぐり抜けると、ハグをしたり、花束を渡したりする生徒がいた。その中には彼の娘さん夫婦もいて、涙を浮かべてみんなに祝福される姿を見ていた。
 私はロリーポップマンの本名を知らないし、彼と会話らしい会話を交わしたこともない。でも、あのほっこりする笑顔で二十年以上通い続けた場所に別れを告げている姿を見ているうちに自然と頬に涙が流れた。
 ロリーポップマンがいなくなった学校前の交差点は妙に静かでぽっかり穴が空いてしまったような気分だった。その穴を埋めるかのようにいつのまにか先生や生徒会長が毎朝校門に立ち、登校する生徒に話しかけるようになった。「いいな。」素直に私はそう思った。

講評

 タイトルがとても素敵です。笑顔が可愛らしいおじいさんが交差点に立って交通整理している光景や、その後の先生や生徒会長が立っている様子が目の前に広がってきました。
 日本でも子どもたちの安全を守って自動車の誘導をする光景をあちこちで見かけますが、引退する日に全校生徒でサプライズをすることは、たぶん日本ではあまりないことでしょう。日本とは異なる海外ならではの視点が他の作品とは違った面白さを生み出しており、読んだ後にほっこりとした気持ちになるエッセイです。

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