福島第一原発から35キロ、海に面していて海産物が有名な私の暮らすまち。辺りを見渡しても田んぼや畑、老人ホームが多く、私にとっては不便なまちである。そんなまちが嫌でしょうがなかった。 3月11日、東日本大震災が起きた。私の家は幸い庭先で津波は止まった。しかし、まちは大きな波により、多くの建物が壊され、多くの命が奪われてしまった。父は連絡がとれない母を心配して勤務先に様子を見に行ってしまい、頼りにしていたのは近所のおばさんだけだった。 しかし、津波を目前に私を置いて直ぐさま避難してしまった。裏切られた気持ちになった。やっぱりこのまちは嫌いだ。 私もなんとか体育館へ避難することができた。余震が収まらず、波が完全に引いていないことから体育館には2泊した。その日は、落ち着くこともできずに、地震・津波・原発、多くの恐怖心に襲われ一睡もできなかった。 家族や、周りの方が眠りについてから、館内を見渡してみると一人の怖そうな男性が騒々しく歩き回っていた。 すると男性は館内中のお年寄に声を掛け、優しく抱き上げ手洗いまで連れて行ってあげていた。その行動に驚き、もっとよく見てみると、男性は足を引きずりながら介護していたのだ。 信じられないような姿に見入っている時だった。男性のきりっとした目と、私の目が合ってしまったのだ。私は咄嗟に持っていたライトで男性の足元を照らしていた。 すると男性は、今までとは違う顔で「ありがとう。」と言い介護を続けた。私は何故か心の落ち着きを取り戻していた。「このまち好きかも。」そう思い、日が昇るまで近くを通る足元を照らし続けた。 男性の頑張っている姿を見て大事なことを多く学んだ。見掛けや上辺だけの優しさはいらない。このような人はこのまちにもっといるはずだ。私もあの時の男性のように自分にできることに最大限の力で取り組みたい。これからもずっとこの大好きな私のまちで。
東日本大震災発生からその後に、作者が現実に遭遇した状況を書いていますから、説得力があり、よくまとまっています。最初は「裏切られた気持ち」が、人に対する信頼が戻る出来事と出会って、再び「このまち好きかも」と気持ちが変わるまでの過程を素直に書いている点を評価しました。第3分野の「わたしが暮らすまち」にも、第1分野の「人とのふれあい」にも合うテーマですが、「人」が集まって「まち」ができるのですから、この作品のように出会った人の優しさを通して、まちを見直すのもいいと思います。