36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2011年度 日本福祉大学
第9回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
最優秀賞 鞆風になりたい
盈進高等学校 2年 小林 美里

 福山市が誇る、「ポニョ」の舞台でも有名な鞆の浦。朝鮮通信使が「日東第一形勝」と絶賛した美しい港町だ。2009年10月、港湾埋め立て架橋問題で「埋め立て免許差し止め」の判決が下った。「暮らしの利便性」と「美しい景観」のどちらを選ぶかの対立に終止符が打たれたと思った。鞆の景観が一本の橋によって壊されなくてすむ。私は判決を喜んだ。
 だが、私が所属する学校のクラブの鞆に暮らす部員は、落胆していた。鞆の幹線道路は狭く、ひどく渋滞して生活に支障があるというのだ。私は生活上の不便さを初めて詳しく知ることになった。
 クラブでは、事業推進と反対の両派、行政からも聞き取り調査を行い、独自に学習をすすめた。学習が深まるにつれ、自分の架橋反対の心は揺らいだ。
 ただ、はっきりとわかったことは、「鞆の問題は住民が決めなければならない」。そして、「鞆の住民はみんな鞆を愛している」ということ。
 でも、それを意識すればするほど、鞆の未来はどうあるべきか、まるで鞆の街の狭い道に迷ったように、私は袋小路に入った。
 鞆の住民は「賛成派?反対派?」という質問を一番嫌う。そして日常は、架橋問題に触れないという。なぜか。鞆には、先祖伝来の素晴らしい地域の絆があり、住民の方が最も守りたいものがそれだからだ。
 部員みんなで決めた。高校生の自分たちにしかできないこと。あえて、現実ありのままを題材に創作劇で思いを伝えると。私はシナリオを担当。私たちが寒風の中で、実際に重要文化財の建物を掃除した時のエピソードを盛り込んだ。私の一番のお気に入りのシーン。
 「今日は、この瀬戸内海に、穏やかな“鞆風”が吹いてるね。朝鮮通信使も、琉球使節も、坂本龍馬の“いろは丸”も、この“鞆風”にのって、西に東に船で旅したんよね。みなさんは、鞆の未来に吹く鞆風だよ。私たち住民の希望だよ。」
 私は本当にそうなりたいと願い、大好きな鞆の街で、今もずっと交流を重ねている。

講評

 答えがないテーマを取り上げて、エッセイにまとめるのは難しいですが、郷土愛と結びつけながら、上手にまとめていると思います。他人の意見をまとめるだけでなく、自分の考えや行動したことを表現している点を評価しました。また、出だしの鞆の浦の紹介が「ポニョ」というのも、高校生らしくて微笑ましいですね。一つだけ希望を言わせていただければ、文字数の関係で難しかったかもしれませんが、創作劇についてもう少し詳しく書いてあると良かったですね。審査員の間で、「どんな劇だったろうね?」と、話が盛り上がったことを付け加えておきます。

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