36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2011年度 日本福祉大学
第9回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
最優秀賞 主夫の勲章
愛知県立時習館高等学校 3年 間瀬木 拓

 「あなたのお父さんの職業は何ですか?」
 英語の例文にこんな一文があった。たかが例文であったが、僕は複雑な気持ちになった。「会社員です。」と答えれば無難だろう。もし「主夫です。」と答えたら相手の反応は変わるに違いない。
 昨今、イクメンという言葉が流行し、家事をする男性がかっこいいと、もてはやされたが、まだ男性が家事全般を職業とするのは社会には受け入れられていない。だからそう答えるには抵抗があった。
 父は僕が中1の冬まで会社員として働いていたが、ある日突然倒れて、障がいが残った。
 リハビリ病院で訓練をし、奇跡的に歩けるまでに回復した。1年間の入院生活を経て、我が家へ帰ってきた。僕の家はそれから変わった。家のあらゆる場所に手すりが取り付けられ、トイレも風呂場も改造した。でも一番変わったのは、父が家事を引き受けることになったことだ。
 病院で規則正しい生活をしていた父は、夜9時前に寝て、朝4時に起床する。僕と母は夜型の生活で朝4時なんて夢の中だ。父はその間ひとりで家族の洗濯を済ませ、弁当と朝食を作る。最近はそんな生活が当たり前になったが、慣れるまで大変だった。手すりにつかまりながら洗濯物を持ってベランダに出るのはひと苦労だ。何度もひっくり返したり、転んだりした。「ドタン」と大きな音がして、驚いて飛び起きたこともあった。
 父は身体の左右のバランスがうまくとれず、よく転んだり失敗したりする。いつも小さな傷が絶えない。傷を見つけ「大丈夫?」と聞くと「オレの勲章だ。」と言って笑っている。
 決して弱音を吐かない。主夫の仕事に誇りを持ち、どんなに時間をかけてでもやり遂げる。
 毎日家族のためにがんばっている父に「主夫の勲章」を贈りたい。
 「僕の父は、主夫です。」と胸を張って言える日も近い気がする。

講評

今年は「お父さん」を題材に取り上げた作品が多かったのですが、その中でも秀逸の作品でした。「手すりにつかまりながら洗濯物を持って出るのはひと苦労だ。何度もひっくり返したり、転んだりした」のように、リアルな光景が書かれていてわかりやすく、よくまとまっていると思います。そして、英語の例文から入る書き出しが印象的で、次を読みたくなるインパクトがありました。書き出しがいいと、作品の魅力が何倍にもなります。ここに、お母さんがどう思っているかなど、作者以外の気持ちが一言でもいいから書かれていたら、さらに良くなったと思います。

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