日曜の電車でのことだ。ドア越しに一人の女性に睨まれた。ずっとイヤホンで音楽を聴いていた私はどうしてそんな風にされたのか一瞬訳が分からなかった。 おそらく彼女は席に座ろうとしたが、前に立っていた私が邪魔になり声をかけたのであろう。だが音楽を聴いていた私にはそれが聞こえず無視してしまった。 結局彼女は座れずじまいだったのであろう。それを理解した私は恥ずかしさと共に申し訳ない気持ちで一杯になった。無論故意に無視した訳ではなく大音量で聴いていた訳でもない。ただ音楽を聴くことによって周りへの注意が散漫になっていたのだと思う。 私は音楽なしでは生きられないと自負できる程、四六時中音楽を聴く。通学路、家、勉強する時でさえも、だ。音楽で頭を一杯にすることにより些細な悩み事があっても、考えるという行為をしなくて済むからだ。 そんな私だが、せめて公共の場では聴かないようにと思い翌日から実行した。その後何となくそのままイヤホンをつけずに帰ったのだが、それは久しぶりに音楽のない道だった。 代わりに耳に入ってきたのは車が通る音、風の吹く音、人々の足音。それは自然の音楽だった。音だけではない。五感が研ぎ澄まされている気がした。普段こんなにも多くのものを見過ごしていたのかと思い、愕然とした。 最近、ただ音楽を受動的に聴くだけで感じるという行為をしなくなったと思う。音楽は多大な力を持っているし素晴らしいものだ。しかしそんな力を持つからこそ聴くことだけに神経を使ってしまい、私のように迷惑をかけることになりかねない。 ならば音楽だけに集中する時間を作るのはどうか。そしてもっと自然の音楽に耳を傾けるべきだ。そうすることにより、心のヘッドホンも外れるように思うのだ。 もし私と同じくイヤホンを手放せない人も、一度心に新しい風を迎え、新たな視界を広げてみてはどうだろうか。きっと世界も広がるであろう。
作者の身の回りの出来事に対する自然な気付きを通して、高校生らしい素直な気持ちで書かれたエッセイになっている点に好感を持ちました。作者にとって嬉しくない経験から書き始めて、「自然の音楽に耳を傾ける」というだんだんプラスの方に話を持っていく構成がいいですね。作者の様に「音楽が無いと生きていけない」高校生が多いと思いますが、このエッセイを読んで「自然の音楽に耳を傾ける」人が増えるといいと思います。