36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2011年度 日本福祉大学
第9回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
優秀賞 ずっと昔のありがとう
福岡雙葉高等学校 1年 夏目 祐衣

 1冊の本を差し出して彼女は言いました。
 「この本、覚えている? 中1の時、私がどの本にしようか迷っていたら、ゆいが『これ、面白いよ、お薦め』って言ってくれたの。あのときはすごく嬉しかったわ、ありがとう。」
 私は全く記憶になくて「本当に私?」とちょっとびっくり。3年も前のことでお礼を言われて、何だかくすぐったい感じがしました。
 図書館の記憶をたどって思い出した、ある日の移動教室。小6の私は、昼食が遅くなり、教室で最後の一人でした。急いで廊下に出ると、何気なく友人が待っていてくれたのです。
 「一緒に行こう。少し急がなきゃ、ね。」
 私はとても嬉しかったっけ。その時の友人に急にお礼が言いたくなって、伝えてみました。
 「あの時は、待っていてくれてありがとう。」
 すると友人は、やはり、くすぐったそうな顔で、私と同じリアクション。「え?私?」
 小さな親切やちょっとした優しい言葉って何だか不思議。かけた方はすっかり忘れてしまうのに、かけられた方はずっと忘れない。
 私の学校では、多くの友達が、幼稚園から同じ学園で過ごしています。これはラッキー。だって、たくさんの「昔のありがとう」が、いつでも言えるもの。明日は、鉄棒のコツを教えてくれた低学年の頃のあの子に、あの時のお礼を言ってみようかしら。
 今、私は1年5 組の級長です。相方の副級長がお休みだった今日は、帰りの会の進行も一人でした。忙しかった私に友達が一言。
 「今日は一人でごくろうさん。」
 緊張をふわっとほぐしてくれたこの言葉も、私はきっと忘れない。いつか友達に伝えよう、「あの時の『ごくろうさん』は、心に染みたよ。」って。ふふふっ、きっと忘れているだろうな。「え?」という顔を楽しみにしよう。
 ずっと昔のありがとうって、言う方も言われる方もちょっと幸せになれるんです。これ、今の私の小さなブーム。みんなにも流行しないかしら、と密かに考えているところです。

講評

 体言止めをうまく使ってリズム感があり、イキイキとした文章になっていることが、このエッセイの魅力を高めています。過去と現在を「ありがとう」で結びつけて、具体的なエピソードをいくつも紹介することで、日常的な幸せを上手に表現していて、作者の素直な気持ちが伝わってくる点に好感を持ちました。終盤の「これ、今の私の小さなブーム」がかわいらしく、作者の気持ちが読者にも伝わって、楽しく読むことができました。こういう気持ちを、いつまでも大切にして欲しいですね。

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