36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2009年度 日本福祉大学 第7回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
優秀賞 文化を継いで
福岡県立輝翔館中等教育学校 4年 樋口 美砂

 私の暮らす黒木町には古くからの伝統文化として、人形浄瑠璃がある。毎年一月の成人式で、この浄瑠璃が演じられる。参加される新成人の人達の服装や態度は様々であるが、演技が始まると会場全体が一気に静まる。時代は変わっても多くの人達がこの浄瑠璃を愛していると感じる瞬間である。
 この浄瑠璃を演じるのは全て小学生である。私もその舞台に上がってきた。これを担当しているのは、人形遣いと語りである。人形一体につき約三人の人形遣いが呼吸を合わせて動作や表情を作る。語りは本来、一人で全ての人形の声を出すものらしいが、小学生にとって難しく、やはり一体につき二、三人で声を出している。
 練習では、その年の出演者の希望や個性に合わせて役割をまず決める。個性というのは身長や体格、声質や声量のことだ。観客が見るのは人形であるが、それを操る子どもは自分と人形が一つになる役割を受け持つことになる。私は人形浄瑠璃の一番の魅力はその感情の表現にあると思う。泣きの場面では腹に力を入れ、大きな声で「くぅ、うううう。」と声を絞り、人形を小刻みに震わせて手で涙を拭っているように見せる。体や顔はやや下向きに傾け、全身を使って悲しさを表現する。また、驚きの場面では声に力と強弱をつけ、舞台から跳び上がるように遣う。その繰り返しの中で、徐々に観客の感動を誘う浄瑠璃ができるようになる。
 六年生は公演を終えると受け継ぎ式に臨む。古くからの伝統を受け継ぐというのは子どもにとって大きなプレッシャーでもある。私は伝統文化を受け継ぐことに大きな意味があると感じている。これまで上演されてきた人形浄瑠璃を後世に伝えるというのはもちろんあるが、こめられた人々の生活の中での喜びや悲しみ、黒木の情景を語り継ぐことになる。言い換えれば、この町の持つ人間の素朴さの継承なのである。

講評

 この作品も最優秀賞と同じ黒木町の話です。こんなすばらしい町に住んでいる二人がとても幸せだと思いますし、そのよさをしっかり見つめている二人も素晴らしいと思います。この作品は、新しいモノや外国製のモノに目が行きがちな若い人が、長い伝統を有する「浄瑠璃」に目を向けてエッセイにまとめた点に好感を持ちました。泣きの場面や驚きの場面では、演者の仕草が目に浮かんでくるようです。そして、最後の「この町の持つ人間の素朴さの継承なのである」の部分に作者の主張がしっかり入っており、エッセイの締めくくりがキリッとしたものになりました。

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