36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2009年度 日本福祉大学 第7回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
最優秀賞 ありがとうの花
福岡県立輝翔館中等教育学校 4年 緒方 朱音

 私は福岡県南部に位置する黒木町で生まれ育った。黒木町は周囲を山々に囲まれた緑豊かな、そして人々の優しさを感じることのできる町だ。樹齢六百年の大藤や樹齢八百年の大樟があり、ホタルの住む矢部川が町の中央を流れる。
 六月のある日、私は久しぶりに大藤を訪れた。紫色の花をつける五月には、多くの人々でにぎわった藤棚も、梅雨の雨に打たれてひっそりとしていた。私はじめじめと蒸し暑いこの季節が好きではないが、大藤の下に立つと、傘を差し出された様な気分になる。優しさと、涼しい風が感じられて、心が解放されるようだ。訪れる人の少ない雨の中でここに立つと、かえって大藤とゆっくり向き合えて、時間が経つのを忘れてしまう。
 目の前の太い幹に、風雨から身を守るように苔が広がっていることに気付く。そこかしこの枝からは柔らかい新芽が生まれている。六百年間、大藤はここに立ち、黒木の人々の暮らしを見てきたはずだ。私の十六年と大藤の六百年とでは比べようもないが、今も命の勢いを燃やし続ける大藤にはかなわない気がする。
 大藤は黒木のおばあちゃんのようだ。その手の中で、黒木の人々に優しさを教えてくれている気がする。また、人々が大藤を愛し大切に守っていることにお礼を述べているかのような花を咲かせる。その姿から、優しさや勇気をもらうことができる。おばあちゃんは今の私と黒木の町に何を語ろうとしているのか、今を生きる私達が受け止めなければならない。自然と人々、お互いが支え合い、認め合って暮らすこと。その双方が感謝し続けることこそが大切なのだ。だから、春と共に黒木はありがとうの花に包まれる。

講評

 黒木町のシンボルである「大藤」に目を付けて、「大藤」に人と人のかかわりを象徴させてエッセイを書いた着想がよいと思います。そして、「大藤の下に立つと、傘を差し出された様な気分になる」「風雨から身を守るように苔が広がっている」「大藤は黒木のおばあちゃんのようだ」「お礼を述べているかのような花を咲かせる」といった比喩がすばらしく、オリジナリティを感じられる点が評価されて、最優秀賞に選ばれました。文章も読みやすく、構成もまとまっていて、大藤を見ることによって黒木町に住んでいることの幸せを感じている作者の気持ちがよく伝わってきます。

UP