36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2009年度 日本福祉大学 第7回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
最優秀賞 小さな尊い命から学んだこと
千里国際学園高等部 2年 池田 愛美

 中学二年生の夏のことだ。母に「一緒に病院に来なさい」と言われた。母は病気なの?と心配しながら映し出されたエコーの映像を見ると、そこには小さな赤ちゃんの姿があった。とても驚いた。この瞬間、私の「何か」は大きく変わった。母のお腹を触ると力強く蹴り返してくる赤ちゃん。その感触を手で感じることができ、きょうだいが増える喜びを感じた。しかしその反面、心配な毎日が続いた。赤ちゃんの成長が一般の胎児より思わしくなかったのだ。そして冬、予想よりもずっと早く対面する時がやってきた。ガラス越しの初対面となった彼女は、小さな小さな未熟児だった。彼女は保育器の中で様々な器具をつけられ、痛々しく思えた。が、NICUにいるどの子よりも元気に手足をばたつかせ、三人のきょうだいに「すぐみんなの所に行くよ」と伝えてくれているようだった。私は一ヵ月の間、毎日欠かすことなく病院に会いに行った。
 ついに、妹が家に帰ってくる日がやってきた。私は、急いで学校を出た。息を弾ませて部屋に入ると、私が赤ちゃんを想いながら大切にカバーをつけた布団で、すやすやと寝息を立てている妹がいた。小さかった。涙が出た。寝ている妹をそおっと抱くと、今までに感じたことのない気持ちがこみ上げてきて、声に出して泣いてしまった。私の手の中にいる小さな命がキラキラと輝き、守ってあげたいという気持ちになった。命の大切さ、尊さを感じた。
 彼女を懸命に育てている母、忙しくとも家族を一番に考えてくれる父。私たちきょうだいもこんな風に大切に育てられてきたのだ、と初めて気付いた。小さな彼女だが、彼女の話題を中心に家族の会話が増え、家の中が今まで以上に笑い声で溢れている。あの時感じた「何か」は、家族を見つめ、思いやる気持ちだったと分かった。そして家族とは、命の大切さを考えさせてくれるもので、私にとって温かく、かけがえのない存在だと改めて感じた。

講評

 新しい家族が増えることの幸せな気持ちが素直に表現されているよいエッセイだと思います。「母のお腹を触ると力強く蹴り返してくる赤ちゃん」といった作者の姿が見えてくる描写が具体的でよいですね。そして、「小さかった。涙が出た」「今までに感じたことのない気持ちがこみ上げてきて、声に出して泣いてしまった」という新しい命を迎えてうれしい反面、未熟児の小さな姿を見て胸がいっぱいになった作者の気持ちが、読んでいる私たちにも伝わってきました。さらに、「妹が指をしゃぶっている姿を見て……」というような赤ちゃんのかわいい仕草がワンセンテンスでもよいので描写されていたら、もっと良くなったと想います。

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