目の前に広がるエメラルド色の大きな海。日本最南端のハンセン病療養所・宮古南静園。昨年末、私は仲間とともに学習会に参加した。 納骨堂には故郷や家族、名前までもが奪われた多くの人々がそっと眠る。祈り鶴を献納。黙とう。静かに入所者の証言が始まる。 宮古島は戦中、アメリカ軍の空襲を受けた。南静園も例外ではなかった。入所者たちは空襲の合間に、海岸線のガマ(沖縄地方の自然壕)に逃げ込んだ。包帯を巻いた不自由な手足。入所者は足を引きずりながら、自分より重病の仲間をかばってガマへと急いだ。短い干潮の時間の脱出劇。空からは米軍の攻撃。サンゴの岩場を歩き、血だらけになった。 私たちもその様子を想像しつつ、腰まで海に浸かって実際に入所者が避難したガマへと向かった。ロープをつたって岩場を登る。「やっとの思いでここに避難できても、食べるものもなく多くの仲間が餓死した。死体は海に投げ込むしかなかった」。入所者の証言を聞きながら、エメラルドの海をじっと見つめる。 「私は比較的軽症だったので療養所を出て社会生活を送っている。しかし、私は今でも自分がハンセン病だったと人に言えない。言わずに結婚して子どもにも恵まれた。だが、その後、妻の親にばれて、現在は妻と子どもに会うことはできない。社会に出ても隠れて暮らしているのと同じだ」。夜の歓迎会前にあった退所者の証言。差別が過去のものではなく、今なお継続していることを痛感した。ハンセン病患者に対する国家の絶対隔離政策とそれを後押しして彼らとその家族を排除してきた社会の罪は大きい。鳴り続く三線の音色に退所者も笑顔になり、私もほっとする。 初夏、新型インフルエンザの騒ぎ。たびたび使われる「隔離」の文字。病気になった方々への誹謗中傷のニュース。どうして? 証言者の方々と三線の音色を思い出す。私は南静園の海に誓ってきた。「どんな人も排除しない」。それが、悲しい歴史への私の答えだ。
この作品も、「腰まで海に浸かって実際に入所者が避難したガマへと向かった」という実体験をもとにして、作者の考えを素直に表現した点を評価しました。過去から学んだことを通して今を見て、しっかり問題提起しているため、読んだ後に強い印象が残りました。そして、ハンセン病療養所を見て感じた話だけで終わらず、新型インフルエンザの騒ぎに結びつけた点がとてもよかったと思います。文末の「誓い」をこれからもずっと大切にしてください。