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「お節介な僕の町」 |
岡山県立鴨方高等学校 三年 岡本 良太 |
僕の住んでいる町は高梁川の西部に位置する、日本一のマスカットの生産地である。自然に恵まれ、山の斜面にはマスカットのビニールハウスが広がり、陽射しを浴びて魚のウロコの様にキラキラと光り、平地には田園が広がり、今の季節はまるで緑色のライオンのたてがみが風に棚引く様です。ここまでカッコ付けて書いたのですが、要するに正真正銘の田舎という事です。
平成の大合併でお隣りの倉敷市に仲間入りしましたが、田舎の気質は健在です。「僕、前谷の精米の良さんとこの子じゃろう。」と名字でなど呼ばれた事はありません。回りはまるで親戚のおじさん、おばさん状態です。今でいう個人情報保護法なんてもんは、僕の町には存在しません。自転車に乗って走っていても「どこへ行きょんで?」と、心の中で僕は「大きなお世話じゃ。」と思いながらヘロッと笑って通り過ぎる。「あちい中学校へ行きょんか。」と岡山弁まる出しで話しかけて来る。若い僕にとっては、うっとうしいの一言に尽きる。しかし年寄りにはありがたい言葉の様だ。「おじいさん、体の調子はどうなん? 寿司を作ったから食べてみられぇ。」とまるで家族の様に話し掛けている。高齢者福祉センターがあり、年寄りの憩いの場所になっている。僕も中学生の時、ボランティアで訪ねた事がある。見慣れた顔がいないと「どうしたんじゃろう、帰りに寄ってみるわ。」と言う様になる。
お節介なのか親切なのか? 若い僕にはお節介にしか思えないが、年を重ね、体が自由にならなくなったら、温かい言葉に感じられるんだろうなぁと思えた。回りに支えられている生活はありがたいものだろう。明日も「気を付けて行っておいで。」のいくつもの声に背中を押されて、僕は自転車をこぐ。いつか僕もこの町で「おじいさん元気でしょんか。」と優しい言葉を掛けたいものだ。 |
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方言が生きていて、読んでいて楽しくなるエッセイです。文章は幼いところもあり、最優秀賞や優秀賞には届きませんでしたが、審査員特別賞にふさわしい作品だと審査員の全員一致で決まりました。
特別深い内容はないのですが、「ここまでカッコ付けて書いたのですが、要するに正真正銘の田舎という事です」「今でいう個人情報保護法なんてもんは、僕の町には存在しません」といった作者独自の表現が随所に見られ、個性がキラリと光るエッセイです。 |
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