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「ぽんつく娘」 |
愛知県立安城東高等学校 二年 清水 睦美 |
真っ赤なランドセルを放り投げると、おばあちゃんに手渡された麦茶をいっき飲み。汗で顔にへばりついた髪もそのままに、私は再び表へ飛び出した。
「ちょっと、ぽんつくに行って来るで。」
「はいよ。」
おばあちゃんの声が返って来る。向かう先は最高の遊び場。夏風が水面を揺らし、キラキラ光る場所。肩にタモを乗せ、片手にバケツを持つ。準備完了。駆け足で向かう先に広がる水田。整然と並ぶ早苗がどこまでも続く。遠くの方で水面が微かに動けば、ザワザワと風が私の所にやって来る。風の通り道が見える。風も水も早苗も生きている。
その場にしゃがめば、また違う世界が見えた。水中の小さな生き物たちは、私の影に気づくとサッと逃げる。私はバケツに水を汲むと、「ぽんつく」を始めた。
「ぽんつく」とは、この町の老人が使う古い言葉で、子どもが魚や虫と遊ぶことを言う。私も近所の子どもたちも、みんな「ぽんつく」が一番の遊びだった。
夕日が沈む頃、「ぽんつく」を終えた子どもたちはバケツの中を自慢し合いながら、それぞれの家族の元へ帰って行く。私はバケツの中の小さな命を思い、揺らさないようそっと歩いた。
そんなぽんつく娘であった私も、高校生となり勉強・部活に忙しい毎日を過ごしている。しかし、普段なにげなく通り過ぎる水田や草むらには、小さな命が生きていることを知っている。
タモの代わりにゲーム機を持ち歩いている子どもたちは、身近な自然の中に生きる命の存在を知っているのだろうか。風も水も生きていることを知っているだろうか。ゲーム機の中で、それを見つけることはできないだろう。
『近所の子どもたちを誘ってぽんつくに行ってみよう』十六歳のぽんつく娘は密かにこんなことを考えているのであった。 |
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子どもたちが自然の中で魚や虫をつかまえて遊ぶという、どこにでもあるような平凡なできごとを取り上げていますが、描写力に優れ、テンポ良く書かれているため、一気に読み通すことができます。「真っ赤なランドセルを放り投げると」から始まる書き出しが素晴らしく、グイグイと引き込まれます。「ぽんつく娘」というタイトルも良く、初めて聞いた「ぽんつく」という言葉を覚えて、自分でもこれから使いたくなるような強いインパクトを受けました。全員一致で、文句なしの最優秀賞でした。 |
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