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「生きる力」 |
福岡県立博多青松高等学校 二年 大沢 愛 |
「呼吸器のこと、明日までに決めて下さい。」四月、私と母は、大きな決断を迫られました。
私の祖父は、筋萎縮性側索硬化症という病気を患っています。この病気は、日に日に筋肉が落ち、手も足も動かなくなり、最終的には自分で呼吸することもできなくなる難病です。
病気を宣告されて約一年、徐々に症状は進行していき、ついにこの日、祖父が自力での呼吸が困難になったことを、医師から告げられたのでした。治療法も見つかっていないこの病気で、祖父が生きられる方法は、ただ一つ、「呼吸器をつける」こと。しかし、「呼吸器をつけるということは、患者さんにとっては苦しいだけ。それに介護する家族もとても大変です。それでもいいんですか。」という医師の言葉にあるように、祖父にとって延命することが必ずしも良いわけではなく、私と母は酸素マスクをつけられ、意識のなくなった祖父の隣に座り、涙を流しながら悩みました。けれど、何時間考えても答えは出せません。そうだ、本人に聞いてみよう。祖父は意識がないのに、ふと私はそう思い、祖父の耳元で、何度も何度も必死に言いました。「まだ生きたい、それとも楽になりたい。」
――すると、気持ちが届いたのか、祖父がうっすらと目を開けて、ゆっくり言ったのです。 「生きたい……。まだ愛ちゃん達に会いたい。」と。私は驚きと喜びで、母と顔を見あわせ、「苦しいけどいいの」と聞くと、祖父はうなづき、私にほほえみました。
そして今、祖父の喉には呼吸器がついています。時折、苦しそうにしますが、祖父は意識もあり、お見舞に行くと、とびきりの笑顔で迎えてくれます。そんな一生懸命生きている祖父に喜んでほしくて、私は以前よりも、勉強や部活などを頑張るようになりました。私と祖父は、互いが互いの『生きる力』になっているのです。 |
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自力で呼吸できなくなったおじいさんの延命措置という現実に直面し、そこで感じた作者の気持ちが言葉でうまくまとめられており、読んでいて圧倒されました。終末期に延命措置をするかどうかの選択は社会でも大きな問題となっていますが、家族がおじいさんを大切にし、おじいさんが懸命に生きている姿を見て勉強や部活を頑張る作者や、家族の温かい絆がよく伝わってきます。エッセイとしては重いテーマですが、読みやすく書かれており、作者の気持ちがしっかり伝わる点が高く評価されました。 |
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