「Wカップと愛国心」
さくら国際高等学校 三年
長澤 周
待ちに待ったWカップ開幕に、国内のサッカー熱も高まるばかりだが、私はいまだに日本代表に感情移入が出来ずにいる。原因は10日程前に見たNHKのWカップ特集番組だ。
番組の中でウクライナのシェフチェンコ、アンゴラのアクア、ドイツのバラックが紹介された。3選手は生い立ちこそそれぞれ違うものの、「独立」「内戦」「東西統一」と、不安定な国内情勢と共に生きて来たということ、そして何より、自国のシビアな実情を見た上で、「国を盛り立てていきたい」という思いが共通していると思った。
私自身はテレビや新聞などで自国の内情を知ることはあっても、親の庇護の下で生活をしている身分であり、肌身に感じることはまず無い。だからこそ彼らの、自分の成功を経済的、社会的な面から自国に還元しようとする姿勢と胸中にある愛国心に、同国人でないにも関わらず胸が熱くなり、純粋で美しいと思った。それに比べ、毎度おなじみの日本代表につけられる「サムライ」「大和魂」といったキャッチフレーズはひどく安っぽく、ファッション感覚の愛国心という印象がぬぐえない。彼らの愛国心とは、根本的に違うのだ。
今、日本では「愛国心」という言葉が問われている。この言葉を中心として「靖国参拝」「教科書問題」など様々な問題が噴出している。かつて日本は歪曲された「愛国心」の下に沢山の他国の人々を傷つけてきた。故にこの言葉自体が非常にデリケートな代物である。しかし、だからといって過剰反応して、頭から否定するのはおかしいし、逆に教科書で強制するのももってのほかだ。真に国を憂い、愛する気持ちはすり込まれる様なものではないからだ。
Wカップで世界に注目が集まる今だからこそ、他国から自国がどう見られているのか意識すべきなのではないか。それには、3選手の姿にヒントがあるような気がしてならない。
(Wカップ開幕を前に)
若い人の多くが関心を抱いているテーマをタイムリーに取り上げたため、興味を持って読むことができました。「愛国心」という難しいテーマを、若者らしい感覚でまとめ、首尾一貫しているところが説得力につながっています。「サムライ」「大和魂」という「ファッション的な言葉」に踊ってしまう日本人の心の動きをよく見ていると思います。しっかりとした問題意識を持って、単純に非難するのだけではなく、自分の意見としてうまくまとめています。「ウクライナのシェフチェンコ、アンゴラのアクア、ドイツのバラック」といった固有名詞をきちんと書いていることで具体性が高まり、芯の通ったエッセイになっています。
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