 |
「初めは十六円から」 |
東京都立立川高等学校 一年 菊地 桃 |
「暑ーい!!」
クラブの後、体中汗だくで何か飲まずにはいられない。けれど都立高の数少ない冷水機の前には長蛇の列。
「コンビニ行って何か買おうよ」
私たちの放課後、お決まりのコース。
「涼しいー!!天国!!」
コンビニの中で久々のクーラーを感じながら、少ないお小遣いで一番安い紙パックのお茶を買う。八十四円。百円出しておつりは十六円。ふと見ると、いつもいつも横目で見ていた募金箱。「世界の子どもたちの未来のために…」確かそんな文字。いい人ぶるのが嫌で入れずに来たけれど、こんな暑さの中ろくな飲み水もない子どもたち、たくさんいるんだろうな…。思わず握っていたおつりを入れた。少なすぎて恥ずかしいけれど、かっこつけてなくて私にはちょうどいい。友達にも気づかれずにチャリンと入れた。
普段テレビで見るイラクの子どもたち、アフリカの子どもたち。見るのがつらくて見ないようにする。分かってる。見なくちゃいけないこと。知っていなくちゃいけないこと。そして、何かしなくちゃいけないこと。でも知らないでいたかったりする。自分の幸せが申し訳ないようで、気づかずにいたかったりする。でも、本当は知っている。嫌というほど新聞やテレビで知っている。
ただの都立高校一年の私に何ができるっていうんだろう…。こうして考えること、少しでもできることをすること…かな。
今日からおつりは必ず入れる。それが鉛筆一本分かもしれないけれど、世界のどこかの子どもと私がつながる時。
何もできなくてごめん。でも私はお金を入れるたび、あなたたちのことを思うようにするよ。心はあなたたちの隣に行くよ。
コンビニのドアが開く。
「暑ーい!!」
また同じ夏の一日。 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
構成力も表現力も秀逸な作品です。「暑ーい!!」で始まり「暑ーい!!」で終わる構成は、インパクトがあって見事です。内容もまた、変にいい子ぶらず「少なすぎて恥ずかしいけれど」と思う高校生らしい若さやさわやかさに好感を持ちました。文字数の関係もあるのでしょうが、なぜ今日に限ってお金を入れたのかをもう少し説明すれば、さらに良い作品になったでしょう。 |
 |
 |
|