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高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
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入賞者発表 第4分野  社会のなかの「どうして?」

優秀賞 「『逃げられない』ということ」
女子学院高等学校 二年 山口 奈美子



 情けない話だが、小学生の頃、私は「いじめ」をしていた。毎日お風呂に入っていなかったAさんという男の子をターゲットに、クラスぐるみで「不潔」「シラミ」と罵ったり、Aさんの盛った給食を食べなかったりした。今だから自分は本当に悪いことをした、と思えるが、当時は「Aさんがいじめから逃げないのが悪い」と完全に自分を正当化していた。
 その後、私は私立の女子中学に進んだので、Aさんとは別の学校になった。又、私の中学校ではいじめは殆ど起こらなかった。そのため、私はAさんのことはおろか、いじめ自体の存在も完全に忘れ去っていた。先日、あのテレビ番組を見るまでは。
 そのテレビ番組では、今年一月に報道された、大阪の中学三年生の男の子が、母親から食事を十分に与えられず餓死寸前で発見されたという事件を特集していた。その中で、男の子の近所に住む子供の母親が、事件についてどう思うかと尋ねられ、たった一言、こう答えていたのだ。
 「逃げればよかったのに。」
と。いじめをしていた頃の私と、全く同じことを、だ。
 私は頭の中が真っ白になった――違う、逃げればよかったんじゃない。逃げられなかったんだ。誰だって逃げたいと思うけど、でも――気付いたら、目が濡れていた。
 私はこの時になってやっと、「逃げる」とは強い人の論理であることに気付いた。同時に、自分が今まで強い人の立場にあり、そのことを利用して自分勝手にふるまっていたことも。そして、強い自分の犠牲に、Aさんがずっとなり続けていたことも。Aさんに申し訳ない気持ちで一杯になったが、今となってはもう謝ることもできない。その代わり、もう二度と弱い人を犠牲にさせたりはしないこと、「逃げられない」弱い人の論理を強い人たちに伝えていくことを、強く心に誓った。



講 評  いじめられた体験はよく書かれていますが、いじめた体験というのは珍しい。そこを勇気を出して告白したことに感動しました。ちゃんと自分で考えて、自分の肥やしにしているところがいい作品になっています。ただ、テレビ番組を見ていて気付いたというのは、やや唐突な感じを受けました。また、この作品も最後がありふれた結論になって、物足りなくなってしまったところが残念です。



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