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「桜井さんからの宿題」 |
広島学院高等学校 一年 有田 祐起 |
僕は息を呑んだ。両目は潰れ鼻は欠け、皮膚全体が引きつり髪もない。弱々しくかすれた声。桜井哲夫さんは想像以上に痛ましい姿だった。ハンセン氏病の残酷さを目の前にいきなり突きつけられた。今年の五月、僕達の学校に講演に来て下さった時のことである。一瞬の恐怖感の後、鼻の奥が熱くなった。
あの日以来、桜井さんのことが頭から離れない。過去の新聞記事、インターネット、桜井さん達元患者さんの本を貪り読んだ。日本におけるハンセン氏病の悲惨な歴史を知れば知るほど、やり場のない怒りが怒涛のようにこみ上げてきた。つい三年前違憲判決が出るまで、癩予防法は改悪され、誤った強制隔離政策が当たり前のように強化され、続けられていた。桜井さん達の人生は、辛い病気との闘いだけではなく、いわれの無い偏見や差別との戦いだったのだ。授業で学んだ日本国憲法の「基本的人権・幸福に、文化的に生きる権利」という言葉が何とも空々しい。過去の真相究明も未だ進んでいない。やり切れない思いは募るばかりで、桜井さんの詩集を読み返した。そこには僕と同年代で故郷を追われて以来の壮絶な生涯が、魂を込めて、静かに語られていた。
ふと、講演会での言葉が蘇ってきた。
「おれはらいになってよかった。」
憎しみや恨みを超越した桜井さんの赦しの心。言い切った言葉の重みをかみ締めた。桜井さんが自分の人生を賭して訴えようとしていることは何なのか。無理な身体で全国の学校を回っておられる意味は。僕は自問自答し続けている。
あの日講演会で握手を申し出た時、思わず両手で桜井さんの手をそっと包んだ。指を全て失った小さな手。硬くて冷たい感触が忘れられない。「過ちは繰り返しませんから。」僕の心に湧き上がってきたのは原爆の慰霊碑にある言葉だ。正義を、真実を、見抜き貫く強い心を養いたい。まず、日々の些細な事でも、決して見逃さずに行動することから。 |
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若い世代の人が、こういった重い素材を取り上げた点をまず評価します。そして、講演会の雰囲気が読者に伝わるようにうまく書かれているのに加え、作者の固い決意が最後にきちんと書かれている点もよかったです。「指を全て失った小さな手。硬くて冷たい感触が忘れられない」という自分の体験や気持ちを具体的に表現している点も好印象を受けました。ただ、型にはまった表現がいくつか見受けられる点が残念です。 |
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