【兒玉友准教授】ユニバーサルスポーツの未来を拓く

文部科学省やスポーツ庁でスポーツ政策を担当後、現在はパラスポーツやユニバーサルスポーツの普及活動に取り組んでいる兒玉先生。この分野に取り組むことになったきっかけや、兒玉先生が感じる本学の学生の特徴などについてお話を伺いました。

ユニバーサルスポーツとは

原田学長 今日は兒玉先生が現在取り組んでいらっしゃるユニバーサルスポーツについてお話を伺いたいと思います。ユニバーサルスポーツとはどのような考え方なんですか。

兒玉先生 ユニバーサルスポーツには明確な定義はないのですが、障害の有無や年齢、性別、国籍などに関係なく、その場に集まった様々な人たちが楽しめるよう道具やルールを工夫したスポーツのことを言います。例えばバレーボールなら、柔らかいボールや風船を使用したり、全員が触ってから返すなど、参加される方の特性や環境に応じて道具やルールを変えていきます。

原田学長 そうなると、障害の有無や性別などに関係なく誰もが参加できるということですね。

兒玉先生 そうなんです。現在、名古屋市の委託事業としてユニバーサルスポーツの普及に向けた取り組みを学生たちと進めているところです。スポーツ庁が示す第3期スポーツ基本計画にも明記されていますが、“誰もが気軽にスポーツに親しめる”をキーワードにユニバーサルスポーツ普及のためのマニュアル整備や、パラスポーツを通じてその考え方を学んでいく為の取り組みを進めています。

兒玉先生

誰もが参加できる場所づくり

原田学長 “誰もが”というのはとっても大事なコンセプトだと思います。兒玉先生がこの分野に出会ったきっかけを教えていただけますか。

兒玉先生 自分自身もスポーツが好きで、小学校3年生のときからバドミントンをはじめ、高校では団体競技で成果を収めることができました。その後、大学でスポーツ科学を学び、高齢者のスポーツに興味を持つようになりました。高齢者が気軽に楽しめるスポーツ環境をつくりたいという思いで、スポーツ系の会社に入りました。入社後の配属先は障害のある方が6割通う福祉のスポーツセンターでした。その施設は障害の有無、年齢等に関わらずスポーツを楽しむ環境が整っていました。こんな環境が各地域にも広がったらみんなハッピーだろうなと思い、そこからパラスポーツの世界にどんどんのめり込んでいきました。

原田学長 その環境で先生がパラスポーツに引きつけられた魅力は何だったのですか。

兒玉先生 障害のある方への指導は、スモールステップにはなりますが、例えば、バドミントン教室に参加した障害のある方が、少しずつラリーが続くようになり、笑顔が出てくる、周りとコミュニケーションが取れるようになる。さらに運動機能が向上し、できることが増えていくことで社会復帰・自立に繋がっていく。そんな姿を見たときはとても感動して気が付いたらこの世界にドハマりしていました。

原田学長 「競技としてのスポーツ」と「みんなが楽しめるスポーツ」には重なるところもあるのですか。

兒玉先生 重なるところといえば、パラスポーツを体験できる場、“入口”があることですかね…。競技力向上を目指す人もそうでない人も、最初は楽しいから続けるんだと思います。続けていく中で道が分かれていくのだと思います。なので、身近な地域で誰もがパラスポーツに参加できる場所をつくっていくことが大切だと思っています。

スポーツ政策を学ぶゼミ活動

原田学長 日本福祉大学に赴任された際に抱いていた期待はありますか。

兒玉先生 日本福祉大学のスポーツ科学部は、パラスポーツについての専門知識を十分に学ぶことのできる学部だと思います。一般企業やその先々で、例えば、車いすの人や視覚障害のある人に出会ったら、「レクリエーションでこんなことができるよ。」とか、企業でのお客様向けのイベント企画の際に「どんな人でも参加できるよう、こういう工夫をしてみましょう。」など、ヒントを出すことができるようになってもらいたいと思っています。そのような考え方や取り組みを卒業後に現場で実践してもらいたいという思いで赴任してきました。

原田学長 先生のゼミはどんなことをされているのですか。

兒玉先生 私は文部科学省とスポーツ庁で働いていたこともあり、スポーツ政策の分野にかかわるゼミ活動を行っています。各都道府県、市町村にはスポーツ推進計画があります。例えばある町のスポーツ推進計画がどのようになっているのかを学生たちに知ってもらいます。次に、その計画の中でどんな事業が展開されていて、そこにどれだけの予算がついているのかを調べます。すると、行政とスポーツの関連性が分かってきます。さらに、共生社会の実現へ向けた取り組みがどのように展開されているかを考えます。現在は、冒頭お伝えした名古屋市の委託事業において、スポーツ推進委員や地域の指導者等を対象としたユニバーサルスポーツの普及講習会をゼミ活動として行っています。

スポーツ科学部の魅力と期待

原田学長 兒玉先生が今後取り組んでみたいことはありますか。

兒玉先生 最近では様々なところで“共生社会”という言葉を目にしますが、どのように実現していくのかが課題だと感じています。本学には学生生活でサポートを必要とする学生の総合的な窓口となる学生支援センターもありますし、特に社会福祉学部では、重度障害や視覚障害のある学生がゼミの中にいる環境が当たり前になっています。スポーツ科学部にも肢体不自由や聴覚障害のある学生がいます。障害のある学生たちと普段から接する機会のあるキャンパスは本学の財産だと思っています。学部の枠を超えて交流できる機会をつくっていきたいと思っています。

原田学長 最後に、スポーツ科学部の特徴について先生が感じることについてお話いただけますか。

兒玉先生 やっぱり、福祉大学にあるスポーツ科学部の魅力をもっと全国に発信していきたいです。全国どれだけ探してもこんなにも素晴らしい環境で学ぶことはできないと思います。障害の特性を知ってそこにアダプトしていくと、それが子どもだったり高齢者だったり親子が参加するイベントや教室のときの工夫につながります。
 例えば、3年次以上の学生が受講するバドミントンの指導法演習で車いすを使って試合をする際、学生たちは「車いすと立位のペア」「風船を使う」など道具やルールを工夫して行います。これは誰もが思いつく発想ではありません。一般的な指導法では、既存のルールや道具で指導しようとします。ですが、学生たちは「3対3でもできるよね」「当たらないなら風船を使おう」と自然と会話にでてくるんです。そうなると私の中では「よっしゃ!」みたいな気持ちになります。
 そんな発想を持った学生をたくさん育てたいと思っています。2026年には愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会が行われます。本学の学生にもボランティア等で積極的に関わっていただきたいです。